やや古い記事ですが、5月7日の朝日新聞に、地方都市の衰退が顕著である言う特集が出ていました。この記事以外にも近年地方の中核都市の衰退を指摘する報告は数多く出されていますし、地方の生活の実態として、それはまさに実感されるところだと思います。
この原因を5年間の小泉政権の「地方切捨て」政策にもとめる声も聞かれますが、私はそうではないと思います。そうであれば、「地方切捨て政策」をやめて従来型の政策に戻せば地方は回復すると言うことになりますが、事はそう単純ではないでしょう。地方の衰退は、主として経済の国際化と情報化によって、国の政策とは無関係に進んだと言うのが、本当のところだと思います。
中国を代表とする発展途上国の安い労働市場が国際経済に登場し、日本を始めとする各国の企業がこれを利用できるようになりました。それが、地方から労働集約的産業を奪いました。反面、経済の情報化で、都市型産業である情報産業、サービス産業がより多くの人を養えるようになりました。両者の相乗効果が、地方から都市へ人口流出の本質的原因であると、私は思います。
都市化が経済の原則に沿ったものであるかぎり、私は、それに逆らうことは難しいし、又そうすべきでもないと思います。都市の繁栄が日本の繁栄にとって望ましいことなら、それにふさわしい都市の規模を実現することが、国益にかなうと思われるからです。
しかし、それは、無制限の都市化が望ましいと言う事を意味しません。過度の都市化が土地を始めとした物価の高沸を招き、持てるものと持たざるものの差を広げて、そこに住む多くの住民の生活レベルを下げることを、私たちは既にバブル時代に経験しました。近年日本の大きな問題となっている少子化は、この都市化による生活レベルの低下と無関係ではありません。都市の狭い住宅で、核家族を中心として生活していては、子供を生み、育てることは物理的に困難になります。この点に関して、日本より高度にソウル一極集中が進んでいる韓国で、出生率1.09と言う日本より更に激しい少子化が進んでいることは、示唆に富んでいると思います。又、恐らくは地方衰退の最大の原因である海外の安い労働力の利用が、10年後も可能であり、かつ経済原則にかなった方法であり続けると言う保証は、実のところ何処にもありません。既に製造業の一部では、政治リスク、為替リスク、技術流出を防ぐ為に、工場を国内に回帰させる動きが見られます。これから10年間で、中国でもインドでも、間違いなく人々の生活レベルは上がり、労働コストは上昇します。それと同時に、技術レベルも上がり、技術流出の可能性は今以上に深刻になります。そのとき地方が崩壊していたら、日本を支える製造業は、帰る場所を失ってしまうことになります。そうなったら東京だけで1億人の人口を支えることは、絶対に出来ません。
だから私は、日本の産業を支えられる基盤を持った地方を保ち続けることは、これから10年後の日本全体の為に必須であると考えています。そのために、政治は何が出来、何をすべきでしょうか。先ずは必要な投資を行って、地方の生活インフラを、きちんと整えるべきでしょう。特に医療、教育といった生活の安全・安心に関わるものは、都市と地方と区別無く、政治が責任を持って整備すべきだと思います。
そしてその上で、私は産業、研究、教育、福祉に対する投資について地方投資特別減税を行って、地方の産業を育成するべきであると考えます。今までも政治主体の産業育成は行われてきましたが、時としてそれは採算性を無視した赤字の垂れ流しとなり、時としてそれは、効果の薄いばら撒きになりました。政治は、経済の専門家ではありません。経済はその専門家である民間に任せて、政治は手助けをするのが、正しいやり方であると思います。
地方に新たな工場を作る企業、地方に新たな学校、研究施設を作る教育機関、地方に新たな福祉施設を作る医療機関、それらの行う投資に対して大胆な減税を行って地方への投資を促進することで、民間の知恵と力による地方の産業の育成が図れます。そしてそれと同時に、日本の企業の国内投資を促進して、日本の産業全体の発展を図ることも可能となります。
この方法をとることの利点は、いくつかあります。先ず直接の支出を要しない為、現在の逼迫した財政状況でも実現が比較的容易です。勿論それは税収の減少を伴いますが、本来ならば海外に逃げたり、そもそも為されなかったりした投資を呼び起こすことから、その減少額は見かけよりは少なくなるでしょう。減税の恩恵は、利益を上げた企業に最も厚くなることから、最も努力した企業が最もこの制度の恩恵を受けることが出来ることになり、ばら撒きや不正の入り込む余地はずっと狭まるでしょう。そして最終的な投資先の選択は企業の自由な意思決定に基づいて為されることから、地方同士、更には地方と都市との間で、より良い環境づくりの競争がなされてより一層、日本の発展に資することになるでしょう。
私はこれを、「国土の均衡的競争的最発展」と呼びたいと思います。故田中角栄先生の日本列島改造論による「国土の均衡的発展」で、日本全国に、一定のインフラが張り巡らされ、それが今日までの日本の経済発展を創出しました。これからは、そのインフラを生かして、民間の知恵と力を使って、企業間、地方間、地方と都市との競争を通して、再び国土を均衡的に発展させる時が来ているのだと思います。
そのために政治がなすべきことは、必要な投資を行って地方と中央に均衡の取れたインフラを整備した上で、地方と都市の間に対等な競争の条件を作る制度をつくることだと私は考えます。それが為されれば、新潟県、そしてそのほかの地方に住む私たちは、都市と互して競争していく気概も実力も十分にあると、確信しているからです。
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