一定の条件を満たすホワイトカラーに「残業代支払い」を含む労働時間規制を適用することを免除する制度、所謂「日本版ホワイトカラーエグゼンプション」が大きな話題になっています。私は実はこの制度は、言われているほどに悪い制度ではないと思います。

 「ホワイトカラーエグゼンプション」は反対派から「残業代不払い制度」と言われています。しかし、この主張それ自体はやや的外れで、正確には「残業代一括支払い制度」と言えるものだと思います。基本給400万円、残業代100万円の人が「ホワイトカラーエグゼンプション」の適用になった場合、原則としては「残業の多寡に関わらず年収500万円」と言う契約が為されるのであって、決して年収400万円の契約になるわけではありません。その意味でこの制度は、労働者の年収にとってはプラスでもマイナスでもなくて、単純に「時間を自由に決められる」ことを意味するに過ぎません。

 但し、「残業の有無に関わらず年収500万円」と決めると、労働者の方はなるべく残業を減らしたくなりますし、経営者の方はなるべく残業をさせたくなります。問題は制度そのものと言うよりは、「この制度を適用した場合、現在の日本の労働環境の中で、どう作用するか?」と言うことになります。

 労働環境は企業規模や職種によって大きくに異なりますから一概には言えませんが、あくまで一般論として言うなら、単純にこの制度を導入した場合、労働時間が延長する可能性が強いのは、反対派の言うとおり間違いのないところだと思います。日本では、自分の仕事が終わろうが終わらなかろうが、「皆で一緒に働いていること」、「人より早く来て人より遅く働くこと」を望ましいとする風土があります。「残業」と言う終わりがなくなってしまったら、むしろ「一番仕事が遅い人が終わるまで全員が残って、残っているものだから次々と仕事が舞い込む」と言う無限の残業ループに陥って、労働時間が際限なく延びるのが落ちでしょう。「自分で労働時間を決められるようにさえすれば、皆自分の仕事が終わったらさっと帰る様になって労働時間が短縮する」と考えるのは、流石に純情に過ぎると思います。

 ですが一方で、日本の過重労働体質を改善する為には、「個々の労働者が仕事の状況にあった形で仕事を行い、時間を融通しあって、相互に休暇を取り合う」事を可能とする制度変更は、やはり必要だと思います。仕事を離れて人生を楽しむ時間を持てるようにすることこそ、そもそも働く目的ですし、そうしていくことが、消費拡大、家族の復権、そして少子化対策へとつながります。単に従来の労働制度を維持をするだけでは、十年一日の過重労働で、いつまでも市民が生活の豊かさを実感出来ずに、日本人全体が疲弊して行ってしまうでしょう。

 そこで私は、「ホワイトカラーエグゼンプション」を選択制にして、「労働契約で、従来の『固定給+残業』型か、『ホワイトカラーエグゼンプション』型(年収型)かを選択することができ、『ホワイトカラーエグゼンプション』型を選択した場合は、同時に『土日祝以外に年間3週間の休暇』を義務付ける」と言う「選択的ホワイトカラーエグゼンプション+3週間休暇制」を提案します。これですとそもそも労働者は「ホワイトカラーエグゼンプション」がいやであれば「従来型」の求人を出している企業に勤めれば良いことになります。「ホワイトカラーエグゼンプション」型の企業に就職した場合には、上述の通り就業時間が延々と伸びる危険はありますが、それでも夏2週間、冬1週間の休暇が取れるなら何とか我慢できるでしょう。又、強制的に3週間の休みをアレンジしなければならないとなったら、その過程で、「お互いに時間を融通して効率的に働く」事が徐々に実践されていくでしょう。企業側から見ても、経営状況から「3週間休みを与えることは出来ない」のであれば従来型の求人をすればいいことですし、「ホワイトカラーエグゼンプション型」を使いたいなら、その前提として、労働者がお互いに時間を融通して休暇を取れる体制は整えておくべきでしょう。「3週間」に異論はあるかもしれませんが、現在の日本の労働者の平均有給休暇日数は18日(2.5週間)ですから、そもそもこの程度の休暇は覚悟すべきものだと言えると思います。

 勿論これは細部を詰めない単純な提案に過ぎません。しかし厚生労働省自身これに似た妥協案を提案していますし、よく考えて細部を練っていけばより柔軟で、現実に即した、労働側にとっても経営側にとっても「より良い」制度を作っていくことは可能だと思います。日本を支えているのは、間違いなく「労働」と「経営」の両輪で、これがうまく回らなければ日本は立ち行きません。拙速な導入でも単純な反対でもなく、「労働」と「経営」の両者が良く話し合って、日本の活力を生む新たな制度を作っていけるよう、「政治」が強力なリーダーシップを取ることを、心より期待します。


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コメント

当を得ていますね。私も経営者の目線で考えれば同意するところです。 ところで米山さんは、いくつ会社を経営されているのですか? 確かネットでは人材派遣の会社を経営されていることになっていますよね。 できれば成功の秘訣を教えてください。 政治、大学の教員、社長、医者、弁護士 一般論からすると到底両立できない。とても信じられない・・・

  • Posted by 中小企業会社員(凡人)
  • at 2007/01/07 17:13:49

中小企業会社員さん、コメント有難う御座います。  私が経営している会社は御指摘の一社だけです(最近は実家の養豚場を運営する(有)セイジローの経営にも多少関わっていますが)。この会社が曲がりなりにもうまく行っているのはどう見ても私の能力と言うよりは、良い仲間に恵まれたからです。高校の先輩で共同創業者の冨田医師を始めとする会社の面々が支えてくれなかったら、とても会社は回っていなかったでしょう。  政治は成功していませんので、なんとも言いようがありません(笑)。医療政策人材養成講座の特任講師はいかにもまだまだで、これからが勝負と思っています。医者は政治が始まるまでは自分なりに頑張っていたのですが、政治と共に休業しています。私は放射線科の診断医ですので、それほど直接に患者さんと関わるわけではないのですが、それでも臨床に携わると患者さんに対する重大な責任が生じますから、政治との両立はかなり困難だと思います。弁護士は司法試験に合格しているだけで修習を受けていませんので、免許があるわけではありません。  と言うことで、私は実はさほど色々両立しているわけではありません。それでもそれなりに多くのことを抱えている為に、周りの人に迷惑をかけることも多く、まだまだ頑張りが足りないと思っているところで、とても「成功の秘訣」などを語れる身ではありません。ただそれでも敢て言うなら、「自分を助けてくれる人を多く持つこと」が、多くのことを行うには必須だと思っています。漠然としていて申し訳ありませんが、参考になれば幸いです。

面白い提案ですね。内容は解りますが、現実的なんでしょうか。 以前私が大企業に勤めていたときは、はっきり言って「サービス残業、超過勤務」のオンパレードでした。もちろん法律的には良い事ではありませんが、経営としては当然の所と言った感じがしています。 いつも思うことですが、法律はいまいち現実感がありません。当然ながら労働の対価に報酬を支払う事は当然でこれを法律で否定してしまうことは出来ないのでここでの議論にならないかもしれません。 ただし小企業経営者とすればぎりぎりの線で雇っているのに残業代金も出す・・・・、とは到底考えられないですね。このあたりの現実は厚生労働省、政治に携わられている方々はどの様にお考えなのでしょうか。 普通は残業代金なんてないですよ。法律を作ってもあまり現実には変わらないでしょう。ましてや有給だってとられたら困るし。回らないですよ。

  • Posted by 大企業過去就業者 小企業経営者
  • at 2007/01/15 19:05:35

大企業過去就業者 小企業経営者さん、コメント有難う御座います。 我田引水的に私の提案についてお返事するなら、「この制度が不可能な企業は、従来どおりの制度を採用すれば良いので、現実的です」となります。今回のホワイトカラーエグゼンプションの様に、実際やってみないとどう運用されるか分からないと言う制度については、選択制や特区を柔軟に利用するべきだと私は思います。 中小企業の大変さは、良くわかります。勿論その最大の理由は中小企業が恩恵を受けにくい現在の経済状況ですが、私はそれと同時に、「サービスを受ける側が、サービスを提供する側に120%を要求する」日本の社会風土そのものが原因の一つだと思っています。日本では、「お客様」は神様で、極端に言うと相手に何を要求しても良いと思われているところがあります。そうするとそれに対応する余力がある大企業はともかく、中小企業では、どうしても一人当たりの労働時間は伸びてしまいます。ところが時としてそれは対価以上(120%)の要求なので、中小企業としてはとても残業代は払えない、と言う構造になっています。 これは勿論一方では日本的伝統であり、日本的美徳です。「サービスを受ける側」にいるときには、これほど心地よいことはありません。しかしひとたび働く側、「サービスを提供する側」に回ると、それは際限のない労働時間の延長を招き、多くの人が仕事に追われて生活の豊かさを実感できない原因の一つとなっています。又より大きな視点で見れば、この恒常的長時間労働が、少子化や家庭崩壊の一因となっている可能性もあります。 この問題を「日本はこうだから」で諦めてしまうのは簡単です。しかし高度成長時代なら明日への希望や根性論で我慢できたことも、現代の安定成長時代では、「労働意欲の衰退」や「少子化による労働人口減少」を通じて日本全体の活力の減少につながる可能性があります。私は、困難は承知で、日本全体で、「お互いに時間を融通しあって生活を楽しむ時間を持つ」社会風土を、是非作り上げていくべきだと思います。そしてその為に、単純な労働時間の短縮が現実的でないからこそ、時間を効率よく使いあって時間を空ける、「休暇とセットのホワイトカラーエグゼンプション」を考慮すべきだと思います。 立場を変えて経営側から見ると、「ホワイトカラーエグゼンプション」は、御指摘の、「ぎりぎりの線」で給与の提示を行えば、あとの残業代の管理に気を配る必要がなく、あらかじめ仕事に要する労務費を固定できると言う大きなメリットがあります。また、「ホワイトカラーエグゼンプション」は成果に対する対価ですから、労働者はあくまできちんと仕事をしたうえで時間をやりくりして休暇を取らなければなりません。そうであれば、経営側も妥協をして労働時間の短縮に協力するのはそう無茶な話ではないと思います。又個別の企業では、長期の休暇を与えることが顧客への対応上難しくても、法律で強制的に与えなければならないと決まってしまえば、顧客への言い訳も立ってずっと実現が容易になる面もあるでしょう。 長くなりましたが、私は、日本人は、世界で最も優秀で勤勉な国民であり、世界で最も豊かな生活を送る権利があると思っています。勿論その実現には、経済的な厳しさや、社会風土の変更の難しさという難題が控えています。しかし私は、諦めることなく、国民全体が知恵を出し合い、協力しあって取り組めば、十分実現できることだと考えています。厳しい現状を見据えた上で、より良い日本を創るために、知恵と力を貸していただければ幸いです。

対象を、下ではなく、上へ! お金に困ってない年収のたくさんある(1億円以上)管理職の人のみに適用を望みます。 下の人が、成績主義ではなく、成果主義?いや成果主義の名を借りた結果至上主義で苦しめられてるのに、しかし、これは上級管理職には適用されてない。 不公平です。だから、上級上司に日本版ホワイトカラーエグゼンプションを! さらに、厚生労働省ホームページの最終報告をみると、下の長時間労働対する残業代のパーセント比率のアップや有給の確実な確保義務(違反は厳罰になる!)、労働契約紛争のルール整備(金銭解決のためのもの) 大手報道機関はこういうことも報道しろよ。本当に信用できないね!かたよった見方ばかりです!

  • Posted by blog7
  • at 2007/01/20 14:38:18

Blog7さん、コメント有難う御座います。  ちょっと誤解がありそうなのですが、現在でも管理職の方には残業代は適用されません。今回の法案(出来てもいませんし、断念の方向のようですが)は、「管理職ではないけれど、自分で働く時間を融通できる事務職」が対象になっています。 今回の法案が残業代アップ等労働環境整備の法案とセットになっていて、ホワイトカラーエグゼンプションがつぶれたことで労働環境整備の法案も一緒につぶれそうになっているのは御指摘の通りです。  それなら労働環境整備の法案だけでもと思われるかもしれないのですが、その辺は国際間の競争もあってなかなか難しいところです。ちょっと極端な例ですが、例えば日本が最低賃金を「年収500万円」に設定したとします。そうするとこの賃金を払って自動車等々をつくると、コストが高くついてとても売れなくなってしまいますから、ほとんど全ての工場が海外に移ってしまいます。それでは結局だれも「年収500万円」で働けない上に、失業までしてしまいますから、完全に本末転倒になります。 「経営者は儲かっているのに」と思われるのは心情的にはもっともなのですが、国家間、企業間の競争が避けられない世界に暮している以上、労働環境の整備は、労働側と経営側双方が使いやすい制度を作りながら進めることが必須であると私は思います。

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