米山隆一の10年先のために

　小沢民主党代表の秘書が、政治資金規正法違反の疑いで逮捕されました。是非事実関係を明らかにしていただきたいと思います。

　ただこの事件は、センセーショナルに取り扱われている割に、何がどういけないのかが混乱している面もあると思います。ここは解説がてらこの事件に対する私の意見を述べたいと思います。

　政治資金規正法は、21条で法人の政党および政治資金団体以外への寄付を禁じています。今回の寄付は、本来法人である西松建設が、政治団体名義で寄付を行った虚偽記載が問題とされています。
　これだけだと、小沢さんは民主党の岩手4区総支部と言う民主党の政治資金団体の代表ですから、「それなら岩手4区総支部で受け取れば良かっただけではないか。些細な事務的なミスをあげつらうとは何事だ」と言う民主党側の主張も分からないでもないと言うことになりそうですが、そうばかりとも言えません。

　 法人から政党の資金団体への寄付は出来るのですが、そこには二つの制限があります。一つは総額規制、もう一つは寄付控除適用額の規制です。
　西松建設の資本金は235億円ですので、1年間に政治資金団体に対して行える寄付の上限は4500万円です。しかし「新政治問題研究会」「未来産業研究会」等の政治団体からの寄付という形をとれば、寄付の上限はなくなります。今回西松建設がダミーとして用いた「新政治問題研究会」「未来産業研究会」から小沢氏の政治団体陸山会に寄付されていた額は年間2400万円だったそうですから会社の行う寄付の総額規制の範囲内ではあったのですが、可能性としてはこの規制をくぐり抜ける事が可能な手段であったと言うことになります。
　もう一つは寄付控除の問題です。会社が政党の資金団体に寄付した場合、資本金と利益の規模によって控除の対象となる上限が決まっています。西松建設の場合資本金235億円、利益15億円ですので、上限は9625万円となります。ところが個人の所得として個人から「新政治問題研究会」「未来産業研究会」とした場合、基本的には所得金額の40％以内であればほぼ全額所得控除の対象となります（住民税は30％）。例えば西松建設が上限の9625万円を超えて2億円の寄付をしたいと思ったら、普通にやると1億円強は控除の対象にならないのですが、これを200万円づつ100人の従業員に分配して、「新政治問題研究会」「未来産業研究会」に寄付してもらえば、ほぼ全額控除の対象となると言うことです（社員の給与は勿論経費として法人税から控除されます）。こちらについても今回は制限の範囲内でしたが、可能性としては脱税が可能な手段であったと言うことになります。

　以上のような問題点がある上に、額が額ですからこれを放置してしまうと、政治資金規正法の規制は、「虚偽記載」の範囲を超えてほとんど骨抜きになってしまいます。従って民主党側の「些細なミスをあげつらっての国権捜査」という主張は失当でしょう。是非ここは潔く捜査に全面的に協力していただきたいと思います。

　ただ既に小沢氏自身が言っているとおり、この問題が「グレー」であって「真っ黒」でないことも事実ではあります。第1に小沢氏側が西松建設側の事情を本当に全く知らなかったなら、出す側に問題はあっても受け取る側に問題はありません。又、例え事情をそれなりに知っていたとしても、「新政治問題研究会」「未来産業研究会」が政治団体としての実質を備えていた－会員に入退会の自由があり、会社とは独立の意志決定機関で独立の意志決定がなされていた－なら、これは「実態に沿った形」と言うことで問題ないと言うことになります。

　従ってこの事件は、「政治資金規正法の実効性を担保するために是非きちんと調べるべき問題だが、だからといって判決が確定するまでは、あまり先走って小沢氏や民主党を批判するような物でもない」と言うことではないかと、私は思っています。