ニュースの感想

尖閣問題とTPP

  • 米山 隆一
  • at 2013/2/14 12:27:54

 中国艦船による砲撃管制用レーダー照射を期に、尖閣諸島をめぐる日中間の緊張が一気に高まっています。

 一方で懸案のTPPに関し安倍総理は、「『例外なき関税自由化』を前提とするTPP交渉には参加できない。」としつつ、「来月の訪米時のオバマ大統領との会見で、この点を確認する。」としています。

 さて、この尖閣問題とTPP問題は、一見関係の無いように見えて、私は密接にリンクしていると思います。

 尖閣問題で、日本はアメリカへのコミットを強く求め、アメリカもそれに応えてくれています。「レーダー照射問題の謝罪を求める」という安倍首相の言は勇ましいですが、本当のところそれを可能にしてくれるのはアメリカであって、日本の力ではありません。また、もし仮に本当に尖閣で日中有事が発生したら、日本単独で局地戦を制することは出来ても、戦況全体をコントロールすることは極めて難しく、全面戦争に突入することなく事態を収拾する為には、アメリカ第7艦隊にお出ましいただく以外に手はありません。
 冷戦終結後に発生した「多極的地域帝国主義」とでもいえる状況の中で、ことに中国が自国周辺での影響力の拡大に意欲を見せている中で、日本は、自国の領土という国益を単独では守ることが出来ないという現実を、私たちは直視せざるを得ません。

 では、日本の安全保障の命運を実質的に握っているアメリカは、なぜリスクを負って、コストを払って、日本を守ろうとしくれるのでしょうか。勿論第1の理由は日米安全保障条約があるからであり、第2の理由は安倍総理が言うように、「自由民主主義」という価値観を日米が共有しているからでしょう。しかし、それらは当然の前提として、本質的に、それがアメリカの国益にかなうからこそ、アメリカは日本を守ってくれるのだと、私は思います。
 今アメリカにとって日本の最大の存在価値、それは、中国の東南アジア経済支配への防波堤ではないでしょうか。
 日本企業は、バブル期と前後して、中国のみならず東南アジアに広範なサプライチェーンを築き、デファクトスタンダード的に、日本の商習慣を東南アジアに持ち込み、同地域を日本経済圏-「西洋経済圏」に組みました。しかし一方で東南アジアは地理的歴史的理由から、古くから「中華経済圏」を形成しており、今まさに「西洋経済圏」と「中華経済圏」の角逐の舞台となっています。

 そして経済圏確保の手段は、「ルール」といまだ変わらぬ「軍事力」です。
 その地域でのビジネスに適用される「ルール」を握ったものがもっとも利益を確保する機会に恵まれる、それがグローバル化した経済の現状であり、その効果は、アメリカ経済の世界的成功を見れば明らかです。だからこそアメリカは、全力でTPPを推進しているのです。
 一方でどれほど「ルール」を確立しても、目の前で銃口を突きつけられたら、人は銃を持った者に従います。中国の軍事力が日本を含む東南アジア諸国の安全を脅かすようでは、この地域でのアメリカのヘゲモニーは確立できません。だからこそアメリカは、全力で、リスクを取って、アメリカ本土からはるか離れた尖閣という小島を、守ろうとしてくれているのだと、私は考えます。
 
 この状況下で、自民党の過半数の議員が言うように、「TPP交渉からの即時撤退」を行った場合、日本、そして東南アジアの未来は、どうなるでしょうか。東南アジア経済圏のルール作りに一切参加できないことは、ほぼ間違いないでしょう。それは東南アジアが西洋経済圏になるにせよ中華経済圏になるにせよ、日本がこの地域で現在持つ優越的立場を完全に失うことを意味します。
 そしてもし仮にアメリカが中国との覇権争いに敗れ、東南アジアが完全に中国経済圏に組み込まれたら、アメリカはおそらく、この地域の安全保障に今ほどの力を注がなくなるでしょう。その時日本は本当に尖閣を守れるのか、アメリカは本当に尖閣問題にコミットしてくれるのか、保証の限りではありません。

 私は、日本が塗炭の努力をして戦後東南アジアに築いてきた立場を守るために、東南アジア経済圏に日本とも適合するルールを創るために、そして尖閣-日本を含めたこの地域の安全を中国の脅威から守るために、是非TPPに参加して積極的に「日本-東南アジア-アメリカ経済圏」を作り上げるべきだと思います。勿論そこでの日本の立場は、「優秀なNo.2」「アメリカの補佐者」というものでしょう。しかし自らの国力がそこまでなら、それを直視して、その力によって最大の国益を得られる選択をし、その実現に努力するのが「誇りある現実的外交」というものでしょう。

 我が国の隣には、自らの国力を顧みず無謀な挑発を繰り返し、いたずらに国益を失っている国があります。それを他山の石として、日本は、TPP交渉参加という現実的選択を誇りを持って主体的に行い、その中で、最大の国益を確保すべく全力で努力すべきものと、私は思います。


  • コメント (2)
  • トラックバック (0)
トラックバックURL :
http://www.election.ne.jp/tb.cgi/94444

コメント

米山先生 ご高説の考えに同感です。ただし、そのためには日本国そのものが自らの力で守り抜くという強い決意が必要かと思います。
現況の日本国憲法のありかたについて、先般の石原党首や平沼氏の国会での質問内容についてどう感じましたでしょうか?まずは憲法の改正による国体の正常化こそが政治的には大事かと思います。現行は難しくてもいずれは外国の軍隊は日本からの撤退を求める必要があるかと考えます。

  • Posted by 維新の会 党員T
  • at 2013/02/17 08:34:00

 維新の会 党員Tさん、コメントありがとうございます。

 憲法改正、国体の議論については、別の記事に記載しましたので、そちらをご参照ください。

 「自らの国を自らの責任で守る」ことには大賛成です。高度に専門化した現代の軍事において素人はさして役に立ちません(現代兵器を操縦できない兵隊は役に立たない時代です)ので徴兵制を採用する意義はないと思いますが、自衛隊の地位向上(地位の確定、指揮権の明確化)、日米地位協定の対等化は是非実現すべきものと思います。

 一方で「日本は日本一国で守るべきだ。」というのは、理想としては同意しますが、現実的ではないと思います。現代の軍事はあまりにも高度になり、「一国で自らを防衛できる国」はアメリカを含め、世界に一つもないと思うからです。
 そのもっともよい例が、北朝鮮の脅威です。北朝鮮のGDPは日本の1/200で、第2次世界大戦までの戦争なら、脅威どころか、およそ相手にする必要すらなかった国だと思います。ところがその北朝鮮が、世界中に拡散してしまった核とミサイルの技術を使うことで、日本どころかアメリカの安全保障まで脅かしています。これに対処するには、周知のとおりアメリカが軍事目的で開発・運用しているGPSや偵察衛星の利用が必須である上、いざ北朝鮮が核を搭載したミサイルを打ち放ったら、日米韓の連携なくしてこれを打ち落とすことは不可能でしょう。
 これらすべてを日本一国で行うことは非現実的だと、私は思います。そしてそれ故に、日本は米国と安全保障条約を結んで基地を提供しているのであり、アメリカ自身も自国だけではこれらの脅威に対処できないから、日本をはじめとする同盟国に基地を置き、かつ予算上の援助を得ているのではないでしょうか。

 私は日本一国主義に陥るよりはむしろ、自衛隊、自衛隊の指揮権、集団的自衛権、日米安全保障条約をきちんと整理したうえで、日米の協調を深め、アメリカと共同して極東-東南アジア地域の安全保障の一翼を担うことが、日本の安全保障を高めると同時に、日本の世界的地位やプレゼンスを高めるものと考えます。

  • Posted by 米山隆一
  • at 2013/02/18 03:55:16

エレログTOP | エレログとは | 運営会社 | 免責および著作権について | お知らせ

政治家ブログ”エレログ”地方議員版ができました。参加お申し込みはこちらから

政治家専門サイト ele-log 国政版 お申し込み 政治家専門サイト ele-log 地方版 お申し込み
国会議員、都道府県知事、市区町村長、都道府県議、市区町村議、および立候補予定者専用

Copyright by Promote committee of Online-Election.,2001-2007, all rights reserved.
ele-log and the ele-log logo are registered trademarks of
Promote committee of Online-Election