ニュースの感想

米国の失望 ~靖国参拝の損得勘定~

  • 米山 隆一
  • at 2013/12/29 19:38:35

 アメリカ大使館に続き、アメリカ国務省が安倍総理の靖国参拝に対し、「失望(disappointed)」の意を示しました。
 これに対し、靖国賛成派からは「アメリカは関係ない」「オバマ政権は弱腰」等々勇ましい言辞が聞こえてきますし、安倍内閣も、「説明すれば理解は得られる。」と楽観的な見解を示しています。
 しかし私は、私自身これを予想していたわけではありませんが、事態は、決して軽視できないものであり、安倍政権そして日本人として、今起こっていることをよく考えるべきだと思います。

 短い期間とはいえアメリカで仕事をしたものとして痛感したのは、アメリカ人は、極めて「合理的」に、もっと俗な言葉で言えば「損得勘定」でものを考える人々だということです。最初のうちそれをドライに過ぎて嫌だと感じることもありましたが、あるときから、「これはこれで、何を考えているか予想がつくし、共感できないまでも理解できるからいいんだ。」と感じるようになりました。

 例えばアメリカ人は、「2倍の給与を貰えてポジションも上がる」仕事をオファーされたら、それまでの職場がどんなに気に入っていて、そこにどんなに義理があっても、大抵「素晴らしいチャンスだからそこに行く。」と言います。私もこう見えて義理人情の日本人として、そのドライさに、100%共感はしません。しかし、そうはいっても「まあ給与も増えて、出世もするんだから、行きたくはなるよな。それを義理があるから行くなっていうのも変だよ。」と言う感じで、十分理解はできます。また、社会全体がそう動いていると、どのぐらいの業績を上げている人にどのくらいのオファーをすれば動いてくれるのか、またどのくらいの給与を払えば引き留められるのかが割と予想できるので、物事の計画がはるかに立てやすくなります。
 これが日本だと、研究室の運営に誰かを引っ張りたくても、誰が誰に義理があって、そうすると誰かのメンツがどうなるから、どの人の了解を得なければいけないとかと言う、わけのわからない連立方程式を解かなければならない羽目になるので、物事の予想が極めて難しくなってしまいます。

 このことは、「国際関係」においても、あてはまるように思います。アメリカは、比較的常に「損得勘定」で自らの利益を最大化しようとしている国です。それは時にエゴイスティックで困るところはあるのですが、一方で、「利益」と言う誰にとっても理解可能な基準で動いているので、これに付き合う側としては、わかり易く、予想可能であるという大きな利点があります。そしておそらくアメリカは、日本を、アジアにおいては飛びぬけて「合理的に損得勘定が出来る」、「予想可能で理解しあえるパートナー」だと考えていたのではないかと、思います。

 そのアメリカの信頼を、意図はどうあれ、今回の安倍総理の靖国参拝は、大きく裏切ったのだと、私は思います。
 「英霊に政権の1年間の在り方を伝える。」「死んだら人はみんな仏になる。」「A級戦犯は事後的に裁かれたに過ぎない。」安倍総理自身、そして擁護者が口にしている理屈は、日本人には、勿論理解も共感もできます。しかし、それが、同じようにアメリカ人に理解されると考えるのは、ナイーブに過ぎます。我々はどんなに言葉を尽くして説明されても、キリスト教徒の聖書に対する思い、イスラム教徒のラマダンに対する思いを、100%理解することはおそらくできません。同じように、アメリカ人は、安倍総理から、そして私達から千の言葉で説明されても、日本人の靖国への思いを理解することはできないのです。

 一方で、靖国を参拝することの不利益は、彼らの目には明らかです。中国がまだ力をつけていない時代、アメリカのヘゲモニーが揺るがない時代なら、中国や韓国の抗議による不利益はとるに足りないものだったかもしれません。しかし今は、極東において中国はアメリカの覇権に挑戦する意図を隠そうとせず、日中韓の小競り合いが日常的に起き、ヘゲモニーが揺らいだアメリカは、一国でそれを抑えることが難しくなっています。総理大臣の靖国参拝は、中国に挑発の口実を与え、アメリカ陣営に引き込んでおきたい韓国を離反させ、巨大な中国市場で日本製品と日本人を排斥の嵐にさらし、中国包囲網を築きたいアメリカの世界戦略にもマイナスの影響を与えるという、「多大な不利益」を及ぼすことは、アメリカ人の観点からは、「誰もが分かる」はずのことだったのです。

 そして、アメリカはおそらくは、賢明な日本人、賢明な自民党、賢明な安倍総理は、彼らから見てよくわからない精神的理由-アメリカ人の感覚では理解できない小さな利益-の為に、日本にとってもアメリカにとっても「誰もがわかる多大な不利益」を被る不合理な選択をすることはないと、考えていたのではないかと思います。

 今回のアメリカの失望は、各所で指摘されている通り、それこそアメリカの「損得勘定」によってこれ以上拡大されることなく終焉するでしょう。しかし、アメリカの、そして世界の「日本人観」が「合理的で信頼できる人々」から、「不合理で何をするかわからない人々」に代わってしまったのだとしたら、その不利益は、目の前の「誰もがわかる多大な不利益」をさらに超えた、極めて大きなものになりかねません。

 国際関係は、自らの文化のなかで、自らが当然だと思うことが、相手にとっては当然ではないというところから、始めなければなりません。そして時には、自らの長期的利益の為に、自らが非常に大切だと思う文化的価値を一時的に飲み下す度量も必要です。

 日本に特有の文化を誇らしげに述べ立てることばかりが日本の為になるのではないということを、一国のリーダー、政権与党、そして何より私たち自身が、理解しなければならないと、私は思います。


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コメント

 今回、アメリカが「失望」したのは自分たちの言いなりにならないからでしょう。いま、アメリカは日本と友好関係があると言っていますが、それはアメリカが日本を起点としてアジアに出たいからでしょう。まして、軍事面においてはアメリカをしのぐ強大な力を持つ中国に一番影響のある日本ですから。
 そもそも、日本という一国の総理大臣の行動を「しつぼう」とは、どの国の国民も言ってはいけないでしょう。

 当時自民党幹事長だった河野洋平(あえて呼び捨て)と、おだてられた当時社会党の村山富市が
一国の政治家とは思えないような談話を発表したのが間違いの始まり。それに加えて、田中角栄氏のまねをして自称「親中国」の小沢一郎が国を中国、韓国に日本を売ったからでしょう。それに輪をかけ、日本のマスコミや国民は自虐的に一国の総理大臣や政治家を責める。他国と境界線を接しない国民の愚かさだと思います。
 
 中国の領土問題は南シナ海や太平洋に及び、韓国の大統領は行かず後家のヒステリック。喧嘩ではなく、政治家の行動としては恥ずかしい限り。

 ここで日本人は目覚めて「国」に誇りを持って正しい行動をしようではありませんか。マスコミの自虐報道に惑わされることなく。

 今回、メールアドレスを書きました。酒を飲みながら語り合いますか?元同志

  • Posted by 南魚沼産だめひかり
  • at 2013/12/30 16:18:07

基本的には、南魚沼産だめひかりさんと同じ意見です。が、神道が世界の宗教の中では極めて少数派にあることで、特に一神教の信者には理解しにくいことをもう少し政治家や国民は理解する必要があるでしょう。
神道的思考は無意識のうちに日本の国民の行動原理を形成しています。要するに世界から見れば不思議ちゃんの一種なわけで、これは日本人がどのようなことを考えて行動しているのか、普段からもっと伝える努力が必要です。
沈黙は禁です。

  • Posted by 名無し
  • at 2013/12/31 07:00:31

 南魚沼産だめひかりさん、名無しさん、コメントありがとうございます。

 おっしゃることは、おおむねお二人の言う通りだと思います。
問題は、「世の中、道理が通らないことはたくさんある。時に涙を呑んでそれを飲み下すことも必要なのではないか。」と言うことだと私は思います。

 極めて生々しい話になりますし、異論もあるでしょうが、前々回の選挙が終わった後、私が自民党から公認を奪われる理由など何もありませんでした。繰り返しですが、自民党本部は正式にそれを認め、県連に降ろしていました。ところが現職の方が自らの後ろ盾となる県議会議員を巻き込んで、各所で当時の私は想像もしていなかった活動をされ、私のブログの片言隻語を針小棒大にとりあげて、何の機関決定もないまま、私には意見を言う機会もあたえず、表面的には自らの手を汚すことなく、自らの都合の良い帰結を得たのだと言って過言ではないと思います。
 その事情を、複数の自民党員の方々は知っておられました。私を擁護してくれた方勿論何人もおられましたが、ほとんどの人は、「仕方ないよ。」「長いものには巻かれるしかないんだよ。」「10年間我慢しなよ。」とそう言って、公の場で反対意見を表明する事はありませんでした。

 私は自らに降りかかった理不尽を飲み下すべきなのか、それとも異を唱えるべきなのか散々迷った末、異を唱える方を選び、現在に至っています。結果としてそれが上手くいったとは言えませんが、後悔はしていませんし、このような事態になったことについての最大の責任は、「権力闘争」と言うものにナイーブであった自らにあるのであって、他人のせいにするのはお門違いであると、思っています。

 ただ「後悔していない。」とは言いましたが、それは、多くの関係者にご迷惑を掛けてはいるものの、最終的には、自分の決断に対して、自分一人で責任をとれば良いからです。
もし「国家」において同じようなことが起こった場合-今の靖国の状況に、似ているところがあると言えなくもありません-、その決断の影響は極めて大規模で、多岐にわたります。国家が理不尽な立場に立たされたとき、15歳の少年のような理想論を語り、理想が通らなかったときはその責任を国際社会とマスコミに帰すべきなか、それとも一時その理不尽を飲み下し、十年雌伏して機を伺い、最終的に多くの人にとって良い結果をもたらすべきなのかは、政治にかかわるものが、国家のリーダーたるものが、よくよく考えておかなければならない事でしょう。

 私に対しては「長いものには巻かれるしかないんだよ。社会なんてそんなものだよ。」と言った方々が、なぜか国際社会に対してだけは勇ましく「正しいことは正しい!他国が何といおうが、気にする必要はない!悪いのは国際社会とマスコミだ!」と言うのは、矛盾でなければ、ご都合主義と言うものでしょう。

 さて、私としてはこんな意見なのですが、それでよろしければ、是非飲みませんか?どうせなら場所と時間をこのブログで公開して、「南魚沼そぞろ飲み-飛び入り参加OK」とできればと思います。お店は魚沼からもそう遠くなく、店の作りも開放的で、私もお世話になった浦佐の「バッファロー」なんていかがでしょうか?勿論それ以外のお店でも構いません。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

  • Posted by 米山隆一
  • at 2014/01/02 14:21:18

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