米山隆一の10年先のために

　安倍総理がＮＨＫの経営委員に任命した方々の、勇ましい言辞が物議を醸しています。
　私はその一つ一つに、言及したいとは思いません。しかし、この平和の時代に、自らは安穏と恵まれた生を送りながら、若者たちに向かって「国の為に命を捨てるのは当然だ！」とおっしゃられ、「都知事選」と言う本来何の関係もないところで過去の戦争の話を持ち出して他国との争いを掻き立てて嬉々としている方々に、私は、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」をお送りしたいと思います。

あゝおとうとよ、君を泣く
君死にたまふことなかれ
末に生まれし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて
人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや

堺の街のあきびとの
旧家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば
君死にたまふことなかれ
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても何事ぞ
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり

君死にたまふことなかれ
すめらみことは戦ひに
おほみずから出でまさね
かたみに人の血を流し
獣の道で死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
おほみこころのふかければ
もとよりいかで思されむ

あゝおとうとよ戦ひに
君死にたまふことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる母ぎみは
なげきの中にいたましく
わが子を召され、家を守り
安しときける大御代も
母のしら髪はまさりぬる

暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻を
君わするるや、思へるや
十月も添はで 別れたる
少女ごころを思ひみよ
この世ひとりの君ならで
ああまた誰をたのむべき
君死にたまふことなかれ 

　靖国参拝や三島由紀夫が日本人の心だというなら、与謝野晶子も、とても立派な日本人の心です。そしてほんの100年前、たったこれだけのことを言うのに、蛮勇を振るわなければならなかった時代が実際に日本にはあったのです。

　安倍総理ご自身も、そして徒に勇ましい言辞で戦争を美化し、命を軽んじる方々にも、是非ご自身の立場と、そして命の尊さを、今一度かみしめていただきたいと思います。