従軍慰安婦問題についての論争が熱くなっています。この問題についての安倍総理大臣の発言が欧米メディアで報道され、一部で否定的な反応を招いています。これに対して日本では、安倍総理大臣自身は、「微妙な時期に私の 発言が正しく伝わりにくい状況がある中で、われわれがここで議論することは 結果として極めて非生産的になるのではないか。」として「これ以上の発言を控える」と言う態度を示しており、これに反対する側は「細かな事実にこだわって弁明ばかりするよりも、民族や女性の人権問題ととらえ、自らの歴史に向き合う」べきだ−「ともかくも謝るべきだ」と主張しています。

 私はいずれに対しても賛成ではなく、「論争を回避せず、根気良く丁寧に反論し続けるべきだ」と考えます。

 第1の「発言を控えるべきだ」と言う姿勢の背景には、「対日非難を行っているアメリカ人、これに同調している韓国・中国の人々は、日本に対する悪意があり」「そうである以上どうせ何を言っても理解されない」と言う考え方があるように思えます。しかし私は、「彼らは極めて強固に植え付けられた誤解に基づいて、100%とは言わないまでも60%以上は善意に基づいて、『謝罪することが日本の為だ』と信じて今回の対日非難決議を行っている」のであり、「そうである以上、根気良く説得し続ければ相互理解は可能である」と考えます。

 実は「善意」と言うのは、結構曲者で、これが行動原理になっていると「自分は正しい事をしているのに、なぜ反論してくるのだ?」と言う心理が働いてなかなか反対の意見を聞いてくれなくなります。又時には反論者に対して、今正に日本が受けているような「私の善意を理解しないこの馬鹿者が!」的な感情的な反応を返すこともあります。しかし異なった環境、異なった文化で育ったもの同士が話す場合、こういった「善意の衝突」が生じるのはむしろ当然なのであって、「一言反論すれば理解してもらえる」などと考える方が甘いのだと、私は思います。熱くなろうがけんか腰になろうが、相手の主張をしっかりと汲み取った上で自分の立場を粘り強く訴える、それこそがこの「善意の衝突」を克服して相互理解にいたる唯一の道であり、相手が「善意」であればこそ、それは必ず可能であると、私は信じています。

 もう一方の「ともかく相手の主張を認めて謝るべきだ」と言う姿勢には、「相手は私達とは違う人種だからどうせ私達とは分かり合えない」と言うある種の諦めが背景にあるように思えます。私は先ほど「異なった環境、異なった文化で育ったもの同士が話す場合、こういった『善意の衝突』が生じるのはむしろ当然」と書きましたが、その衝突はあくまで一時的なものに過ぎません。アメリカ人であろうが韓国人であろうが中国人であろうが、話してみれば大体は自由と正義を愛するそれこそ「善意」の人達です(そりゃ中には例外もいますが)。「理解してもらえないから相手の言うことをそのまま認める」と考えるのは、一見相手を尊重しているようで、実は相手の善意を信じない、一種の侮辱であるように私には思えます。自らの見解をきちんと相手に示して理解を求めることこそが「相手を尊重し、相手の善意を信ずる」事だと、私は信じます。

 以上から私は、日本政府に、アメリカ下院議員及び欧米各メディアへ、塩崎官房長官(勿論安倍総理大臣や麻生外務大臣でもかまいません)名で丁寧な反論文−「従軍慰安婦の方々に多大な不幸をもたらしたことに心から謝罪する。ただ心から謝罪するゆえに、日本が現に行ったことと、行わなかったことは区別したい」−を送付することを提案します(政府の公式スポークスマンである官房長官名の手紙であれば、各紙ともとりあえず全文を掲載せざるを得ないでしょうから)。それは一時的には世界中に激しい議論を引き起こすでしょう。しかし開き直ってしまえば、それは世界中に日本の主張を聞かせるまたとない機会でもあります。議論の収束には、長く根気強い説得が必要でしょうが、覚悟を持ってその論争を行うことこそが、この問題に対する日本についての長年の誤解を解き、関係各国と相互理解にいたる唯一の道であると私は思います。自らが譲れない問題において「相手の善意を信じて最後まで冷静に論争を続ける覚悟と技量」こそが、これからの日本に必要とされていることだと、私は思います。


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コメント

この対応方法は新しい提案だと思います。是非、安倍総理に提案していただきたいと思います。今回の件は、特定アジアのプロパガンダと思われます。まさに、北朝鮮の宋大使は、この提案をとりあげ、「世界が日本の従軍慰安婦を非難している」という発言を行いました。このような外交の為のプロパガンダと思われても仕方がないでしょう。(私はそのように信じます)しかるに、それぞれの国ではそれぞれの考え方があり、考え方の違いは仕方がないと諦めてしまっては、何の解決にもならないどころか、そこで相手の考えに屈したととられてしまいます。今回のエントリにある、米山さんの提案は、民族の違い、歴史の違いに逃げず、両者の共通認識(最大公約数)をベースとし、その上に両者の正しい認識を築いていくという、まさに氾世界的な手法と思います。私も、新潟に生を発しアメリカでもまれている最中ですが、中途半端な日本政府の対応や、日本でしか通用しないような政府発表にイライラさせられる事がしばしばです。ぜひ、米山さんには中枢でがんばっていただきたいと思います。

  • Posted by yuk
  • at 2007/03/14 14:27:05

yukさん、コメント有難う御座います。  北朝鮮の発言は間違いなくプロパガンダなのですが、北朝鮮の強みは、「相手の反応を無視して徹底してプロパガンダを行える」ことにあります。日本政府には日本政府の立場がありますから全く同じことは勿論出来ません。しかしそれでも時にユーモアや御涙頂戴のパフォーマンスを交えつつ自国の国益にかなうように「プロパガンダ」を行い続け、国際世論に日本を理解してもらうと言う発想がもう少しあって良いと思います。現在私に出来ることは限られていますが、出来る限り頑張って行きたいと思います。アメリカ暮らし、楽しい所も大変な所もありますよね。頑張って下さい。

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