賃金の地域間格差と最低賃金

  • 米山 隆一
  • at 2007/3/06 22:29:50

 さる3月1日に、民主党は、最低賃金法の改正、児童扶養手当の縮減とりやめ、同一価値労働・同一賃金の実現、非正規社員の正社員化促進などを柱とする格差是正緊急措置法案を国会に提出しました。

 この法案の中で民主党は、「全国最低賃金」を定め、これを時給800円程度にすることで、賃金の地域間格差を縮小しようとしています(尚同法案は、各地域はこれより高い地域最低賃金を定められるとし、民主党はこの地域最低賃金の平均を1000程度に定めるように求めています)。私は一見「地方の賃金を上げて経済の地域間格差を縮小させる」ように見えるこの法案は、現実的には正反対の結果をもたらしかねない、危険なものだと考えています。

 ちょっとした例で、この問題を考えて見ましょう。今仮に原宿のキラー通りと長岡市の大手通にクレープ屋さんを作ったとします。全く同じ材料、全く同じ味で同じアルバイトの方が売ったとしても、売り上げは恐らく10倍程度には開いてしまうでしょう。その時、クレープ屋さんのご主人は、アルバイトの方に同じ給料を払えるでしょうか?答えは常識的に考えて「否」で、同じ商売をやっても、人口の集中する所とそうでない所では「効率」が全く異なる以上、「給与」にまわせる額も異なると言うのが、この例からもたらされる結論だと思います。

 そうすると「全国一律800円の最低賃金」は、それが地方のクレープ屋さんにとってぎりぎり払える給与額より低ければ良いのですが、仮にそれ以上であったとしたら、招来される結果は「地方のクレープ屋さんの給与の上昇」ではなく、「地方のクレープ屋さんの消滅」になります。そしてこの状況でも都会ではクレープ屋さんは営業できますから、最終的に、「何でもある魅力的な都会」と「何も無い地方」と言う図式を加速することで、更に地方と都会の経済格差が拡大することになってしまいます。

 勿論地方の最低限に合わせて−地方のクレープ屋さんがぎりぎり払える額に合わせて−「全国一律最低賃金」を定めれば、このような事態は避けられます。ただその場合には、賃金水準の高いところでの事情とは無関係に最低賃金を定めることになりますから、最低賃金はあくまで「最低限の保証」であって、賃金の地域間格差を解消する効果はほぼゼロということになります。そうすると「全国一律最低賃金」はただ単に名前を付け替えただけ、と言う結果になってしまいます。

 結局のところ賃金の地域間格差は、「人口密度」「商圏人口」「産業集積度」等々の様々な経済条件の差と言う厳然たる事実によって生じているのであって、これらの事実を無視した議論はそもそも無意味であると、私は思います。例え困難であっても、これらの事実と正面から向き合い、知恵と工夫と努力でその差を克服することが、格差解消の唯一の方策でしょう。根本的な原因を放置して、本来別の目的に用いられるべき制度を用いて耳障りの良い繕縫策を提案するのは、国民の生活に責任を持つ政党として極めて無責任だと、敢て言わせていただきたいと思います


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