ニュースの感想

 日本郵政の社長再任を巡って西川社長と鳩山総務大臣が鋭く対立し、官邸がその調整に苦慮していることが連日報道されています。
 私はこの問題について端的に、総理が鳩山総務大臣を今一度自ら説得した上で、従わないのであれば更迭すべきものと考えます。鳩山総務大臣は、しきりと西川社長を批判し、これが「正義か不正義かの問題」であると主張しています。私はその主張それ自体が随分見当違いであると思うのですが(ブログ記事「鳩山総務大臣に物申す http://www.election.ne.jp/10840/69090.html 」 を参照して下さい)、問題の本質はそこではなく、鳩山大臣が指揮命令系統をあまりにも無視して自説を主張しているその態様にあると考えます。

 やや話が横道にそれますが、「孫子の兵法」に以下のようなエピソードがあります。

 孫武(「孫子」の著者)が初めて呉の国王に謁見したとき、孫武は国王から「後宮の女官達を兵士に出来るか?」と問われました。孫武は「出来ます」と答え、後宮の女官達を2つの隊に分け、それぞれの隊長に国王の寵愛する第2婦人、第3婦人をつけました。そして女官達に、「『前進!』と言ったら前へ、『右』と言ったら右へ進め」と言った命令を丁寧に説明しました。一通り説明が終わった後孫武は号令を掛けますが、隊長を初め、女官達は笑っているだけで命令に従いません。そこで孫武は「これは軍令であるから従わなければ切る」と言ってもう一度号令を掛けますが、それでも女官達は笑っているだけです。すると孫武は、「命令が正しく理解されなかったのは、将である私の責任である」と言って兵士に自らをむち打たせました。そしてもう一度「再び軍令に従わなければ切る」と厳命して号令を掛けますが、やはり女官達は嬌声を上げるばかりです。すると孫武は、「命令は既に十分理解されており、これは私の責任ではない。そうであれば命令違背は隊長の責任である」と述べて、国王の制止を無視して、隊長に任命した第2、第3婦人の首を切りました。その瞬間女官達の顔は真っ青になり、以後、号令一下一糸乱れず動き出しました・・・。

 組織論を振りかざすのはあまり好きではありませんが、何であれ組織というものは、統一的に動いてこそ、その力を発揮します。そして組織が統一的に動く為には、組織全体がトップの命令に従う事が必要です。現在の状況は将である麻生総理が「右」と言っている時に、隊長である鳩山大臣が女官達の前で大声で「違う違う、左左!!」と言っているようなものです。これでは女官達はどう動いて良いか分からなくなりますし、何より将である総理の命令にあるべき最終性・絶対性が失われてしまいます。
 「右に行くべきか左に行くべきか」、将と幕僚で意見が分かれることはままあることでしょうし、それについて幕僚が首をかけて将に進言することも必要でしょう。しかしそれはあくまで、「軍幕の中(作戦会議の場)」で行うべき事です(だからこそ「軍幕」と言うものがあり、だからこそ部隊長のような軍幹部は「幕僚」と呼ばれます)。軍幕の中で如何なる激論が交わされようが、一度外に出たら、幕僚自身が率先して将の命令に従うのでなければ、兵士は命を落とすこともある軍命に服従してはくれません。
 自民党は良く民主党を「仲良しサークル」と批判しますが、現在は官邸自身が正に「仲良しサークルの内輪もめ」を国民に露呈している状態で、このままでは政府官邸、自民党、ひいては日本全体までもが、指揮命令系統を失って漂流してしまうことを、私は本気で危惧します。

 孫子に続いての引用で恐縮ですが、ナポレオンは、「1匹の羊に率いられた100匹のライオンと、1匹のライオンに率いられた100匹の羊が戦ったら、必ず後者が勝利する」と言う名言を残しています。
 麻生総理大臣が、政府、自民党、そして日本を率いるライオンであり続ける為には、ライオンの権威を傷つける「鳩」に対して、例えその行動が「正義感」に基づくものであろうが、例えそれによって自身も相当の向こう傷を受けようが、上述の孫武のように、理を尽くした上で毅然とした対応をとる必要があると、私は考えます。


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コメント

いつも拝読させて頂いています。タイムリーな話題で楽しみにしています。それにしても麻生総理の盟友である中川前大臣に鴻池前官房副長官そして鳩山大臣と、本来ならば総理をしっかりと支え、脇をがっちり締める役割のはずの方々が、立て続けに問題を起こしてばかりで、一体どうなっているのでしょうか?何か根本的な原因があるのではないでしょうか?この様な状態が続いたのでは、内閣も自民党も国民から更に支持を失ってしまいます。西松事件時の小沢民主党前代表とは違い、素早い対応と的確な説明が必要だと思われますが、如何でしょうか?もっとも米山さんが望まれていることかもしれませんが・・・

  • Posted by T.G
  • at 2009/06/08 20:45:36

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