ニュースの感想

地方分権の光と陰

  • 米山 隆一
  • at 2009/7/14 19:22:06

 最近はやや失速気味ですが、地方分権が大流行しています。東国原知事も橋本知事もそれに便乗したマスメディアも連日連夜「地方分権」を唱えておられて、まるで地方分権こそが今の国政の最大の問題点であり、これさえ実現すれば総ての問題が解決するかのようです。

 しかし、そもそも論的に、「地方分権」は、文字通り「権力を中央と地方でどう分担するか」という「外見」の問題に過ぎず、これだけでは、「分担した権力をどう行使するか?」と言う「中身」の問題には答えていません。何を聞かれてもひたすら「地方分権!地方分権!地方分権!」と唱える自民党総裁候補(知事に戻られるようですが)の方には、一度是非「で、その分権の結果得た権力で、一体何をしたいんですか?」と伺ってみたいと私は思っています。

 又そんなそもそも論以上に、地方分権には、光と同時に、大きな陰があります。「部分最適は必ずしも全体の最適とはならない」からです。

 よく言われるように、小泉改革-市場原理に乗っ取った民営化改革-には「光」と「陰」がありましたが、私は大枠として、民営化改革は正しかったと思っています。官僚が作った「私の仕事館」は毎年14億円の赤字を、「かんぽの宿」は毎年50億円もの赤字を垂れ流しています。民間に出来ることは民間に任せて効率的な経営を行ってもらう方が、社会全体の無駄が小さくなることは間違いありません。その意味で、小泉改革の「光」の部分は、もっと強調されて良いと思います。
 しかし民間企業はあくまで民間企業であって、民営化されれば当然私的利益を追求します。それは「効率の源泉」として認められるべきものですが、行きすぎれば陰も作ります。「競争は必要だが、それだけでは自らの力では立ち上がれない程に負ける人が出てしまう。そこをきちんと守るセーフティネットを作るのは、政治の大事な役割である」と言うことが、私達が小泉改革から学んだものだろうと、私は思います。
 
 「地方分権」も実はこれと全く同じ事が言えます。地方の現場を全く知らない霞ヶ関の官僚から権限を移譲し、地方の事情を反映した政治を実現することは、確かに大事なことです。しかし、当たり前のことですが、新潟県には新潟県の事情、宮崎県には宮崎県の事情があり、更には大阪府には大阪府(大阪府も立派な「地方」自治体です)の、東京都には東京都の事情があります。それぞれがそれぞれの事情を追求すれば日本全国でより良い政治が実現できると考えるのは、市場に任せれば総て上手くいくと考えるのと同じようなものです。
 各地方が自らの事情を追求した結果、全体として上手くいかなかった良い例が、「医師の地方偏在」でしょう。「医師の地方偏在」には勿論複数の原因があるので一概には言えませんが、その原因の一つが、2004年に始まった「臨床研修制度」であることは、異論のないところだと思います。この制度が始まる前、大学を卒業した研修医のほとんどは、自らの出身大学の医局に入局していました。それがこの制度によって、研修医は自らの意思で研修先の病院を選ぶことが出来るようになりました。これだけなら「医局人事の透明化」という「光」を生み出しただけで良かったのですが、この制度と同時に、研修医が研修先として選べる「研修指定病院」は、ほとんど倍になりました。つまり各病院・各地域が「研修医の取り合い」を展開することになったのです。その結果は当然「研修医の都市集中」と言う現象を生み出しました。この事例は正確には「病院間での研修医の取り合い」で「自治体間での研修医の取り合い」ではないのですが(とは言え自治体立病院の多くが取り合いに参加していたので、結局は「自治体間の取り合い」だったのかもしれません)、例えば各自治体が研修医受け入れ定数を設定していても全く同じ事が起こったでしょう。
 全国に医師を上手く配置しようと考えるなら、日本全国での定数管理と同時に、地方毎の定数管理が必要になります(既に来年度より研修医定員の地域別管理が始まることになっています)。そして医師不足の現状においてそれを行うには、どうしても中央政府の権限と関与が必要になります。

 我が新潟県が生んだ大政治家、田中角栄氏は「国会議員は49%は全身全霊で地元のことを考えなければならない。しかし残る51%は、日本のことを考えなければならない。」と言う名台詞を残しました。「地方分権」のみが唯一の主張である方は知事としての職責を全うしていただくのが本人にとっても地方にとっても、又何より日本全体にとっても幸福であり、国会議員を目指すものは、地方の事情を最大限反映させながら、日本全体としてもっとも良く機能する制度をどう作るかを、地方分権の光を生かしながらどうやってその陰に光を当てていくか、真剣に考えなければならないと私は思います。


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コメント

地方分権とは民主主義が全体に根付いていることが前提であるので、まだ時期尚早だと考えます。

  • Posted by 新潟県人
  • at 2009/07/18 17:08:34

国による所得再分配が大事なのは重々承知していますが、
今の国は、中央集権国家を後ろ盾に、霞ヶ関官僚が、面倒くさがりな代議士を操作して好き勝手やっています。

これでは、地方大都市は、税を払っているわりに政策の自由選択ができず、不満が発生しています。
橋下知事が言っている地方分権は、金くれや権限をくれではなく、霞ヶ関官僚を一回解体して、国会議員が霞ヶ関官僚をコントロールできる状況や組織に作り変えろってことです。
今は、霞ヶ関官僚に操作されている面倒くさがりな自民党代議士に嫌気が差している国民が多いせいで、民主党に追い風が吹いているのではないでしょうか?

このHPでなされている米山さんの主張(霞ヶ関改革)は、自民党より民主党に近くないですか?民主党に近いなら素直に認めるべきではないですか?
米山さんは能力が高いのに、自民党にたくさんいる「政治闘争が上手いだけの老人」と、同じ行動をしているのでがっかりです。

  • Posted by 地方大都市民
  • at 2009/08/14 23:15:04

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