ニュースの感想

放射線Q&A

  • 米山 隆一
  • at 2011/3/19 22:59:37

ここ数日、福島原子力発電所の状況が大きなニュースとなっています。私もかつて放射線科医として放射線医学総合研究所に勤務していた関係で、知人から原発の状況や放射線について質問を受けます。既にこういったQ&Aのサイトは多く見られますが、それでも何かの足しになるかも知れませんので、アップさせて頂こうと思います。

Q.福島の原発が、「核爆発を起こす可能性はありますか?」
A. ありません。その可能性は完全に「ゼロ」です。核爆発を起こすには、最低でも70%以上の濃縮ウランが必要ですが、日本の軽水炉で用いられているウラン燃料の濃度は、5%程度に過ぎません。従って核爆発は起こりません。

Q. では何故福島の原発で、「爆発」がおこったのですか?
A. 核燃料は、放っておいても徐々に「核分裂」を起こして熱を発生します。この熱を上手く除去できないと、原子炉内に「水蒸気」や「水素」がたまります。この水蒸気や水素が爆発したのが、今回の爆発です。

Q. 水蒸気や水素が爆発すると、どうして困るのですか?
A. 水蒸気や水素が爆発それ自体によって、放射線が発生することはありません。しかし、これらの爆発で原子炉や建屋が壊れてしまうと、核燃料棒から出ている放射線が、周囲に漏れ出してしまいます。また、爆発によって原子炉内の放射性物質が空中にまき散らされると、これが風に乗って拡散して、広い地域に放射能汚染が広がってしまいます。

Q. 再び、福島の原発で爆発が起こる可能性はありますか?
A. 可能性はあります。ただ、楽観は禁物ですが、その可能性は実はあまり高く無いと思います。「水蒸気」や「水素」が爆発する為には、水蒸気や水素がある程度の濃度でたまる必要があります。そのためには建屋なり格納容器なりで密閉されている必要があるのですが、既に一度爆発している以上、建屋も格納容器も、相当程度に損傷しているものと思われます。そうすると、損傷部位から水素や水蒸気が漏れてしまうので、爆発は起こりにくくなります。ただし、損傷部位より漏れるより多くの水蒸気や水素が発生する状況-燃料棒の急激な加熱や「再臨界」等がおこれば、再び爆発する可能性はあります。

Q. 福島の原発で「再臨界」が起こる可能性はありますか?
A. 可能性はゼロではありませんが、非常に低いと思います。福島の原発では、どの原子炉にも、再臨界を防ぐ為の「制御棒」が、ウラン燃料の間に挿入されています。従って、現状のままであれば、再臨界は起こりません。再臨界が起こるのは、「燃料棒が熱で溶けて、溶け出したウラン燃料が制御棒のないどこか一カ所に大量にたまり、その上そこに、減速剤として働くのに程よい量の水がある」という偶然が起こらなければ発生しません。そんな偶然は滅多に起こるものではなく、可能性としては無視しても良いのではないかと思います。

Q. では、福島の原発はこれからどうなると思いますか?
A. 補助電源が復旧して水を回せるようになれば、かなりの確率で、事態は沈静化すると思います。復旧できるかできないかは、補助電源の状態によるので、予想は困難です。
 即座に復旧できなければ、現在の状況-ウラン燃料が発熱し続け、破損した原子炉から放射線が漏れ出る-状況がしばらく続くことになると思います。これは非常に困ったことですが、かといって、幸いにしてと言っていいかどうかは分かりませんが、これより事態が悪化する可能性は、上述の通りさほど高くないと思います。

Q. 福島原発から20kmの地点で、放射線による健康被害の心配はありますか?
A. 現在福島原発から20km後点にある福島県浪江町で、200~300μSv/hの放射線量を測定しているとのことです。これは、20日程度で100mSvを、被爆する量になります。100mSvは「放射線業務従事者が1回の緊急作業でさらされて良い限度」とされていますから、20km圏内の方は避難するのが無難でしょう。ただ、「1回で浴びた時の影響」と「20日間掛けて浴びた時の影響」では後者の方が低く、数日間この放射線を浴びたからと言って、健康に影響がある確率は、さほど高いとは思いません。
 ざっくり言うとこの放射線による被爆量は、「毎日1回CTを撮影している」人が被爆する量とほぼ同じになります。状態の悪い患者さんで「連日CT」となる人は時にいるのですが、それで何か起こることはまずありません。医者としては「あまり気持ちいいものじゃないけれど、許容範囲」という被爆量だと言えます。

Q. 東京で、放射線による健康被害の心配はありますか?
A. ほぼゼロと言っていいと思います。こんな事を言うと福島原発の近くにお住まいの方には大変恐縮ですが、東京は福島原発から200km離れています。福島原発の中性子が飛来する可能性は、全くありません(そもそも中性子の空気中での平均自由行程は220mですから、直接中性子が飛んでくる可能性は、原発構内以外ではほぼゼロです)。問題は、放射性物質が拡散してくることですが、ウランを初めとして放射性物質は基本的には重いので、そう簡単に飛んでくることはありません。飛んでくる為には一旦空中高く舞い上がる必要があるのですが、そう言った爆発が起こる可能性が非常に低いことは、前述した通りです。従って、これまた福島原発の近くにお住まいの方に非常に恐縮ではあるのですが、例え不幸にして原子炉の冷却に失敗して今のまま放射線が漏れ続けたとしても、東京で健康に被害を及ぼすほどの放射線が観測される可能性は極めて低いものと思われます。


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コメント

久しぶりの掲載ありがとうございます。いつもの語り口が実感できて安心しました。出来ればいろいろ聞かせて下さい。

  • Posted by 西寧
  • at 2011/03/28 12:55:04

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