ニュースの感想

「リベラル叩き」という名の不毛

  • 米山 隆一
  • at 2018/2/11 14:17:28

 昨今、「リベラル」叩きの言論が盛んです。保守的論者、国会議員他の社会的影響力のある方々が、ことあるごとに「リベラル」が如何に駄目であるかを論証し、巷にはその手の書籍が溢れています。
 その中には当を得たものも、率直に言って「フェイク」と言って差し支えないものもありますが、私は正直に言ってそれらの言論のほとんどはいずれにせよ「不毛」だと思います。

 私自身は「リベラル」を自認していますが、リベラルな考え方に勿論良い点も悪い点もあり、更には「考え方」の問題を離れて「リベラル」を掲げた政治的団体の活動の在り方に、これも率直に言って、ナイーブ若しくは未熟と言って差し支えない部分がある事は全く否定しません。

 しかし、言うまでもないことですが、現在の日本は「保守」を掲げる自由民主党が与党であり、かつ、1955年から現在に至る63年間の内、3年間を除いた60年間政権与党にあり続けています。現在存在する制度・社会の問題点を指摘し、その改善を求めるなら、どう考えてもその相手は政権与党に対してであるべきであり、政権の場に存在しない「リベラル」をこき下ろして溜飲を下げても、世の中は何一つとして変わりようない事は、あまりに当然です。

 そして「現在存在する制度・社会の問題点」を率直に見た時、それは「保守」若しくは「伝統回帰」によって解決出来るものでは全くない事は、殊に地方自治の現場において極めて明白であるように私は思います。
 言うまでもないことですが現在日本、殊に地方は、未曾有の人口減少に直面しています。現在はまだ減少が始まったところですが、これからその影響が次々と顕在化してくることはほぼ避けられないでしょう。その中で地方社会が、税収、福祉、生活そして共同体そのものを維持しようとするなら、今迄の社会の在り方を時代に合わせて改善することは不可避です。
 地方だけではありません。IT化、AI化の波の中で、これも率直に言って、日本の産業は最早世界の最先端にはいません。その上そこに人口減少による人手不足が加わります。決して高くない労働生産性を、滅私奉公的な長時間労働で賄ってきた日本モデルはもう使えません。日本の産業が再び世界のトップに戻るためには、今迄の労働の在り方を時代に合わせて改善することが必須です。
 そしてもしかしてより一層恐ろしい事なのですが、日本の科学技術開発・教育はもはや世界トップクラスでも、アジアトップでもありません。多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた日本の科学技術・教育の現場は今、率直に言って現状にそぐわない資源配分によって疲弊しています。日本が世界トップクラスの科学技術を生み出し続けるためには、現在の日本と世界の情勢に合わせた研究開発・教育体制の再構築が不可欠でしょう。

 それらのすべてにおいて、「リベラル」な価値観は、むしろより一層必要になっていると私は思います。
 人口減少を食い止めるためには、根本的に出生数を増やすしかなく、それにはより多くの方に子供を産み育てて頂くしかありません。そのためには、様々な生活、様々な価値観を有する方々が、障壁を感じることなく子供を産み育てる事ができる社会が必要です。
 そしてそれを支える産業-労働の場は、やはり様々な生活、様々な価値観を許容・両立し、その中からより生産性の高い価値を生み出すものでなければなりません。
 そのすべてのもとになる科学技術開発と教育の現場は、様々な価値観を有する方々がその能力に応じて高い創造性を発揮できる場でなければなりません。
 繰り返しそのために必要な事は、現在の仕組みに固執し、時にすでに時代遅れになった制度に復古しようとする保守的な態度ではなく、変化を恐れず、様々な在り方、様々な可能性を許容し、その中から時代に最も時代に即したものを選んでいく合理的で創造的でリベラルな態度であると、私は思います。

 「識者」を自認し、社会への影響力を有する事を自覚する方々には是非、現在の日本の問題を何一つ解決することのない「リベラル叩き」という名の不毛な病から脱して、現在の日本が必要としている改革を、その改革を行う事ができる立場の人に、提言して頂きたいと思います。
 それこそが、「識者」のノブレス・オブリージュというものだと、私は思います。


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