豚の世話とニート対策

  • 米山 隆一
  • at 2006/5/21 23:29:02

 私はボストンで、豚を使って心臓の病気を治療する研究を行っています。私の生家は養豚業を営んでおりまして、子供の頃はよく豚の世話をしました。その豚に地球の反対側で再会した訳で、よほど縁があるのだと思います。

さて、この豚の世話ですが、こちらでは実験動物の管理は「アニマルテクニシャン」といわれる専門の人が当たります。また、動物以外の実験室の仕事をこなす「ラボテクニシャン」という人もいます。面白いのは、この「アニマルテクニシャン」や「ラボテクニシャン」を、高校生・大学生がボランティアで行ったり(勿論本職の監督の下ですが)、大学を終わって大学院を目指す学生が短期(12年)で行ったりしている事です。

この研究室での仕事に限らず、アメリカの大学、大学院ではこういったボランティアや、短期での職歴を重視します。それも単に「職歴」があれば良いのではなく、監督者から「優秀でした」と言う推薦状をもらわなければならないので、彼らはとても一生懸命仕事をします。また、使う側も、彼らを現場の戦力として、尊重し、責任のある仕事を任せます。アメリカの学生は大学、大学院の学費を自分で払うのが普通なので、大学が終わった時点でいったん進路と関係のあるこういった職に短期で就職して学生時代のローンを返し、それから大学院に進学すると言うパターンも多く見受けられます。

私は、この「比較的早い時期から職業の現場で、現場の一員として働く機会を持つ」と言うアメリカのシステムは是非日本でも見習うべきだと思います。勿論日本でも多くの学生さんがアルバイトで仕事を経験していますし、民間企業が大学23年生を対象に実務を経験させる所謂「インターンシップ」もだいぶ広がってきています。しかし、まだまだその対象は限られていますし、民間の「インターンシップ」ではどちらかと言うと「お客様」扱いになることが多いように思います。

それには、政治がある程度音頭をとって、民間企業、大学、官庁が幅広く、現場の一員として働く機会を提供すると同時に、その際の働き方をきちんと評価して、以後の進学の参考にする仕組みを確立することが必要だと思います。これによって、学生さんは将来どのような道に進みたいかについて、具体的なイメージを得ることができますし、「働く」と言うことの厳しさとまた楽しさを学ぶことが出来ます。

そしてこれは、昨今問題となっているニート問題に対する、一つの対策になると私は考えています。ニート問題の原因は勿論多様でしょうが、日本では学生さんが働く現場から比較的隔離されてしまっていることで、いざ働かなければならなくなった時に、どの分野が自分に向いているかが分からなかったり、「働く」事のイメージがわかなかったりすることも原因の一つであると思うからです。

最後に私の研究室の仲間の写真をアップいたします。写真右から1番目の青年は本職のアニマルテクニシャンを目指しています。彼は豚の世話は勿論、簡単な豚の心臓カテーテル術をこなします。右から2番目の青年は大学終了後2年間アニマルテクニシャンを行って学費のローンを返し、この秋からボストンの歯科大学に進学します。彼は豚の心臓の手術を上手にこなします。二人ともとてもよく働く、素晴らしい青年です(他の方は研究者仲間です)。


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コメント

豚から二ートへの展開、アメリカと日本の対比、お見事です。 ところで、ポークとビーフはどちらがお好きですか。

  • Posted by 大崎
  • at 2006/05/23 00:38:19

 有難う御座います。私は豚肉の方が好きです。上述しましたように私の実家は養豚業を営んでいるのですが、それと同時に肉屋も営業しております。ここでは牛肉や羊肉も扱っているのですが、中心は自分のところで作った豚肉になります。両親は共働きで忙しかったので、我が家の食卓には、可也の頻度で、この店から直送の豚肉が上りました。  その為だと思うのですが、私の中では、単に「肉」といった場合、それは「豚肉」を指すと言う感覚が出来上がっています。牛肉はたまに食べる分には美味しいですし、ご馳走には違いないのですが、なんとなく落ち着かない感じがします。調度赤味噌のお味噌汁の家庭で育った人にとって、「お味噌汁」といえば「赤味噌」で、たまに白味噌のお味噌汁を飲むと、美味しいけれどなんとなく違う気がするのと同じような感覚だと思います。  因みに高校時代、友人にこの話をしたら、ものすごくびっくりされて、逆に驚いたことがあります。あまり豚肉を食べない家庭に育った彼にとっては、「肉といったら豚肉」と言うのは言語道断だった訳です。このとき以来私は、食の好みと言うのは可也の部分が習慣によって形成されて、それ次第でいかようにもなるのだなと思っています。

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