フランスと女性と出生率

  • 米山 隆一
  • at 2007/1/31 12:46:35

 最近出生率をめぐり話題が沸騰しています。ワイドショー的トピックはさておきこの問題について最も注目すべきは、フランスの出生率が2.0になったと言うニュースでしょう。何故フランスの出生率が上昇したかについては、その手厚い子育て支援にスポットが当てられることが多いのですが、何より彼らの余裕ある生活ぶりが最大の原因であるように私には思えます。

 こういうとフランス人に怒られそうですが、基本的にフランスの方はあまり働きません(勿論一般論に過ぎません。アメリカで私の同僚だったフランス人は大変勤勉でした。ただ、彼は何かと言うと本国フランスの同僚が如何に働かないかを嘆いていました)。労働時間は35時間ですし、夏のバカンスは1月以上取るのが、一般的です。そしてその時間を、家族同士や恋人同士で、とても情熱的に過ごされます。フランス映画の世界はあまり冗談でもなくて、日本人どころかアメリカ人から見ても「フランス人って言うのは、本当に全員、フランス人なんだよな・・・そりゃ、子供も増えるよ・・・」と言う感想が思わず出てしまいます。

 このあたりは正直良し悪しで、あまりに生活重視の労働制度がフランスの先進工業国としての地位後退を招いているのは否定しがたいところでしょう。その結果が若年層、特に移民の若年層の失業をもたらし、暴動にまでつながったのは記憶に新しいところです。個人の情熱が生活を楽しむことにだけ向けられて公に対する意識が薄れることは、社会にとっては悲劇なのだろうと、思います。

 これとは対照的に、日本人の勤勉さが現在の日本の繁栄をもたらしたことは間違いのないところで、私はフランス風の労働制度をそのまま日本に導入すべきだとは全く思いません。しかし、繁栄をもたらすために必死で働いた結果もたらされるものが、「人口減による日本人の消滅」であるとしたら、それはもう悲劇を通り越して、喜劇に近いように思えます。子育て支援と同時に、男性も女性も余裕を持って働ける労働環境を作ることで、個人が生活の豊かさを実感できる社会制度を作り、その中で出生率の向上を実現することが、今の日本には是非必要なことだと思います。

 さて、ワイドショー的トピックに戻って、この出生率に関して、女性を産む機械に例えた柳沢厚生労働大臣の発言が現在大きな問題になっています。この発言はそれだけとると、大臣には大変申し訳ないのですが、気が効いているとは言いがたくて、フランス女性の前で話そうものなら、ワインをぶっ掛けて席を立つと言うそれこそ映画の一場面になりかねないものだとは思います。しかし、前後の文脈を見ると、柳沢大臣はあくまで「出生数を増やすには、全ての女性に出産を強制するのではなく、生みたいと思う女性がたくさん生める環境を作るべきだ」という至極全うなことを言いたかったに過ぎないと普通に読み取れますし、何より大臣自身が直後に訂正しています。この発言を持って大臣を女性差別論者のように言い立てるのは流石に意地悪と言うもので、余計なお世話なのでしょうが、「そんな風だといつまでたっても粋なフランス映画のヒロインにはなれませんよ」と耳打ちしたくなってしまいます。

 出生率の議論は、男女2分論によるいがみあいによってではなく、どうやって、仕事と両立しながら、男女共同で生活と家族を構築し、その豊かさを実現できる制度をつくるか言う方向で行われるべきものだと思います。男性の失言に席を立った女性も、あわてて後を追って弁解する男性に対しては、「私が機械なら、貴方はその機械に支配される人になっちゃうのよ。私はそんなのはいや。二人でもっと人間らしい生活を楽しみましょうよ。」くらいに切り返して席に戻ってこそ、フランス映画のヒロインたれるのではないのかなと、思います。国会が、有意義な政策論争の場になることを心より期待します。


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