先日、海賊対処法案が参議院で民主党初めとする野党の反対で否決された後、衆議院で再可決され成立しました。この法案は、現在ソマリア沖の海賊退治に派遣されている自衛艦に、海賊船に対する船体射撃と外国船の護衛を可能とするものです。この法案が成立する迄は、自衛艦は近づいて来た海賊船に発砲することも出来なければ、日本関係の船舶以外を救うことも出来ませんでした。こんな状況はおよそ正常とは言えないわけで、私はこの法案を再可決を使って成立させたのは至極当然であり、「自衛隊の海外派遣に道を開く」「集団的自衛権の行使を認めるものだ」などと言ってこれに反対するとは野党はいったい何を考えているのかとさえ、思います。
さて法案が成立した以上既に解決しているように見えますが、実はこの「海賊退治」は日本により深刻な問題を投げかけています。海賊退治に対する艦隊派遣は、日本国内では本年1月政府が自衛艦派遣を決定してから急に注目を集めるようになりました。しかし、そもそも海賊行為自体は2007年から、国連による対処は2008年6月から始まっています。残念なことに日本は最初から最後まで、各国共同の海賊対策の構築にリーダーシップを発揮できませんでした。また各国共同対策の海賊対策が確立して艦隊派遣を求められた際にも、国内政治の混乱もあって当初は腰の定まらない対応をしていました。それが最終的に艦隊派遣を決めたのは、「中国が派遣を決めた」からに他なりません。
ソマリア沖はご承知の通りアフリカとアラビア半島の間にありますから、正直「欧米のテリトリー」と言えなくもありません。従って如何にこの海域を運航する船の1割を日本関係の船舶が占めようが、日本の自動車輸出の2割がこの海域を通っていようが、「枠組みの構築は欧米にお任せ」「艦隊を派遣するかどうかは中国次第」というあり方も、有りは有りなのかもしれません。
しかし、海賊が発生するのは、何もソマリア沖だけではありません。近年は各国の努力や、5年前小泉政権下の日本主導で設立されたReCAAP(Regional
その時日本が、速やかに艦隊の派遣を決定して、主体的なリーダーシップで中国を初めとする各国艦隊との協調体制を構築できなかったら、東南アジアの海は完全に、「中国の海」になります。それは日本が、「経済」のみならず「外交」においてもアジアのリーダーの地位を完全に中国に譲り渡すことを意味します。
「リーダーの地位」それ自体に固執するのは馬鹿げたことかもしれません。しかし、恐らくそれは、日本経済の衰退という形で、ボディブローの様に私達の生活を脅かすでしょう。豊かな時代があまりに長く続いたが故に私達日本人は、日本が豊なのは未来永劫変わらないと思っているかのように見えます。しかし、私達がこれほど豊かな生活を送れているのは、日本が世界で最も進んだ国の一つであり、経済のみならず外交においても相応の発言権を持って自らの権益を確保できているからです。この地位を失なったら、他の多くの国と同じようにいくらでも貧しくなり得るのだという現実を直視すべきだと、私は思います。
世界の経済情勢も、外交情勢も、そして軍事情勢も日々刻々と変化しています。アメリカ一国に依存すれば総て解決する時代は恐らく終わりましたが、民主党が夢見る国連主導による世界秩序の構築は、未だ夢に過ぎません。
現在の世界は、アフリカ・中近東では欧米と、東南アジアではASEAN各国と、極東では6カ国協議参加国の面々と、それぞれに「地域の安全保障体制」-「地域的集団的自衛体制」を構築しなければならない時代に突入していると、私は考えます。そしてこの「地域的集団的自衛体制の構築」においてリーダーシップを発揮できなければ、日本の未来は、おそらく米中の狭間に沈んで二度と浮かび上がることはありません。
「日は又昇る」、その実現の為に、日本は、「集団的自衛権を巡る神学論争に終止符を打ち、自らリーダーシップを発揮し、自らリスクを取り、自ら汗を流して、アジアの海を初めとして世界の各地域における協調的安全保障体制の確立に邁進すべきだと、私は考えます。
私は海賊法案賛成派です。
時には自衛しなければならないときがあると思います。
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