安倍政権がTPP交渉参加に舵を切る中、反対派から「TPP交渉参加は、国民皆保険を崩壊させる。」「金持ちしか医療を受けられない世界になる。」と盛んに喧伝されていますので、医療に携わり、医療制度の研究も行ったものとして、意見を述べたいと思います。
TPPは確かに幅広い交渉で、貿易全般のみならずそれに関わる各国制度も交渉の遡上に上っていると伝えられています。しかし、TPPは基本的には「貿易にかかわる(人、物、金の国境をまたいだ移動にかかわる)」交渉であり、逆に言えば貿易とは無関係な各国の保険制度…医療保険その他の制度は全く対象としていません。今までの交渉において、各国の医療保険制度が交渉の題材になったという客観的な証拠・ドキュメント・報道はゼロであり、正直「TPPに参加すると混合診療が解禁になって国民皆保険が崩壊する…云々」は、根拠薄弱な「TPP恐怖症」によるネガティブキャンペーンにすぎないように思います。
では、「TPPに参加しても絶対に国民皆保険は揺らがないか?」と問われると、残念ながらTPPが国民皆保険制度を揺るがす可能性それ自体は、あると思います。ただし理由は、TPPが国民皆保険の制度を妨げるからではなく、現在の日本の保険制度を十二分に機能させるからという、一般から見たら真逆の理由によります。
TPP反対派の方々は口を開ければ「世界に誇るべき国民皆保険」と繰り返されますが、一方で日本の医療は、医師・看護師不足や、Drug Lag(海外で認可された最新の薬が日本で使えないこと)といった数多くの問題を抱え、それによって医師・看護師の不足する地方で十分な医療を受けられない、海外で認可された最新の薬を使えば助かる命が使えないといった問題が、生じています。
TPPは、医師・看護師といった専門職資格の相互承認、薬剤の輸出入にかかわる認可の相互承認を含んでいます(人と物の移動ですので)。これが実現することで、海外からの医師・看護師が入ってきて地方の医療不足を解決し、海外の治験データに基づいて薬を使えることになり、日本でも常に最新の薬が使用できるようになる可能性があります。
「それならいいことばかりで、何の問題もないではないか。」と思われるかもしれませんが、日本の国民皆保険には、更に最大の問題「保険財政の大赤字」があります。TPPによって特に地方で、十分に高度な医療を提供できるようになればなるほど、出来高払いの保険制度下では、保険財政の赤字はかさみます。TPPは、「金持ちしか、高度な医療を受けられない。」事態を出現させることによってではなく、むしろ全く逆に、「地方でも、誰もが高度な医療を受けられる。」事態を出現させることによって日本の保険制度を崩壊させる危険をはらんでいるのです。
こう考えて見ると、日本の保険制度を脅かしているのは、本当はTPPではなく、日本の保険制度それ自体であることに気付かれると思います。日本の農業が、TPPに参加するしない以前に、後継者不足と高齢化という大問題を抱えており、TPPに参加しなければ農業が守れるわけでは全くないのと同じように、日本の医療保険制度は、TPPに参加するしない以前に、医療従事者不足と、コントロール不能な出来高払いによる大赤字という大問題を抱えており、TPPに参加しなければ守れるというものでは全くないのです。「世界に誇る国民皆保険」などと、10年1日のごとく繰り返しつづけるのは、単なる奢りにすぎません。
日本の抱える問題を直視し、それを正面から改めることこそが、未来につながるのだということを、TPP参加問題を契機に、是非国民全体で考える契機にできればと思います。
尚、改革の具体案については、次稿「日本列島スマート化計画-社会保障編-」で述べさせていただきたいと思います。
医療で現在起こっている問題について、米山さんはスペシャリストでしょうから信じてよいのだと思います。
私の分野である金融、保険については、アメリカやカナダの保険商品、学資積み立て、老後の資産形成プランなど、日本では認可されていない優れた金融商品が解禁されれば日本人の資産形成がもっと楽になると思われます。
同時に日本人の金融リテラシーを高める必要がありますが。
「良いこともある」というのは事実でしょう。
もちろん輸出産業なんかは関税の撤廃によって儲かりますしね。
前にも書きましたが、自由化、規制緩和はトータルで反対であり一部賛成です。
おっしゃるように需要と供給のミスマッチが起こっているのであればその部分で自由化を行えば良い話ではないでしょうか。
二国間協定でよいと思うのですが・・・
次回を楽しみにしております。
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