上半期の好調な企業決算を背景に、政府が経団連(東証一部上場企業の集まりです)に従業員給与のベースアップ、所謂ベアを求め、複数の企業がこれに応じる意向です。
勿論政府にはそんな法律的な権限はないのですが、安倍総理や甘利経済再生担当相は、「給与を挙げない企業は恥ずかしい環境を作る。」とまで言ってこれを産業界に求めており、私は、これは、行政指導として許される限度を超えた、パワハラ、セクハラならぬ、「ガバメントハラスメント」と言っていいものではないかと思います。
さて、ではこの「ガバメントハラスメント(行政指導)」は、本当に私達の給与を上げるでしょうか?私は、
「それに従う企業では勿論上昇するだろうが、経済原理を無視した人為的な給与アップは労働市場をゆがめ、むしろ全体としての給与を下げる可能性がある。」
と考えます。
まず厚生労働省の月額勤労統計8月確定値を見ると、以下の実態が浮かび上がります。
①正規雇用者の給与は、-0.2%減少している。
②非正規雇用者の給与は、-0.5%減少している。
③労働者一人当たりの現金給与は、-0.6%減少している。
です(安倍ノミクス、実は大したことありません)。ここで日本の正規雇用は64%、非正規雇用は36%ですから、①と②だけなら、本来的に全体としての給与の低下は0.3%にとどまるはずです。それが0.6%と大きく減少している大きな理由は
④非正規雇用者の割合が、+0.5%上昇している。
ことです。
正規雇用者の平均給与34万円に対して、非正規雇用者の平均給与は9万4千円とものすごい格差がありますので、労働者の1%が正規雇用から非正規雇用に代わると、労働者の平均給与はおよそ0.7%低下します。
つまり今の日本においては、マクロ経済学的に見て、
「総労働者に対する総給与支給額に最も影響を与えるのは、『非正規雇用比率』だ」
ということです。
では、その観点から見て、政府の「ガバメントハラスメント(行政指導)」による給与上昇(ベースアップ)は、どのような効果をもたらすでしょうか?
第一には、勿論、それに従う一部上場優良企業の正社員の給与を上げます。
ところがです。これは労働市場によって決まったものではなく、行政指導によって人為的に作られたものですから、その企業の外、つまり一般の労働市場には、これよりも安い労働力があります。つまり労働市場に、2つの値段、1物2価が生じているのです。こういう状態が生ずれば、資本主義の原則によって裁定取引、安いところで仕入れて高いところで売る活動が生じます。それはすなわち、
「派遣会社が安い値段で非正規雇用労働者を雇い、それを給与水準が高い一部上場優良企業に派遣する。」
ことに他なりません。つまり、安倍内閣総力を挙げての、「企業経営者は給与を上げよキャンペーン」-「ガバメントハラスメント」は、確かに今一部上場企業に勤めている正規雇用者の給与は上げるかもしれないのですが、全体としてはむしろ非正規雇用比率を上昇させ、日本全体としての給与水準をほとんど上げないか、むしろ下げていまう可能性を孕むものだと言えます。
因みに、厚生労働省の月額勤労統計9月速報値は、
①正規雇用者の給与は、+0.4%増加している。
②非正規雇用者の給与は、-0.2%減少している。
③労働者一人当たりの現金給与は、+0.1%増加している。
ですので、給与は0.1%微増しているものの、全体として上記の見方を裏付けています。
そしてこれによって、日本経済には、「日本全体の給与総額が上昇せず、したがって景気が回復しない。」というマクロ経済的な問題だけでなく、「非正規雇用-ワーキングプアと言う名の国内貧困層の増大」と言う新たな社会保障上の問題までもが突きつけられることになります。
長くなってしまいましたのでまとめると、「安倍ノミクスの『給与上げろガバメントハラスメント』は、一見よさそうに見えて経済原理を無視した旧来の「行政指導」であり、その結果労働市場をゆがめて、却って非正規雇用を増加させ、結果景気の回復を達成できないばかりか、国内貧困層を増加させる可能性がある」、と言うことになります。
労働賃金は、あくまで労働市場で決まるべきもので、政府の対策は、労働市場の適正なルール作りと、放っておいても市場賃金が上がっていく経済環境づくりであるはずです。労働組合におもねった民主党の分配政策を否定して登場したはずの安倍ノミクスが、労働市場の整備を放置し、規制緩和による成長戦略を中途半端にしたまま、経営者に口先でプレッシャーをかけるという安易な手段で賃金上昇を図り、一時的に効果を生んだとしても、やがてそれはマーケットから手痛いしっぺ返しを食らうことになるでしょう。
「ガバメントハラスメント」「行政指導」などと言う邪道に頼ることなく、正々堂々、正面から規制緩和に取り組み、労働市場のルールを整備して、国が何も言わなくても、企業みずからが人手の確保の為に給与水準を上げたくなるような経済制度を作ることが、政治の役割だと、私は考えます。
相変わらず日本は共産主義してますね。経済の中心である民間企業の意思を重視せず、国がああだこうだと。
さて、現場を見ていると労働基準法や労働契約法に大きく問題があるように思えます。
まずは、従業員の残業代を払わない企業については刑法適用ができるようにする。サービス残業がなくなり、従業員が提示で帰るようになれば、夕方からの消費が伸びるでしょう。
次に、従業員を解雇しやすくする。これで企業がお試しで雇えるようにできる。ドイツが雇用を逆に増やした経緯があります。フランスは解雇要件を厳しくしたせいで、逆に新たに人を雇うことをやめてしまいました。
それでは米山さんはどのような政策を提言されますか?
一見では言えないと思いますが。わかる範囲でお願いします。
私もまずは、従業員を解雇しやすくするのが必要と思っていました。その後の規制緩和はよく理解できていません。
よろしくお願いいたします。
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