さる2月7日に福島県の甲状腺調査結果が公表され、子供の甲状腺がんの患者さんが75人(100万人当たり333人)いることが判明しました。子供の甲状腺がんの発生率は従来100万人に1~3人とされてきましたので、福島において子供の甲状腺がんの発生率が100~300倍に跳ね上がったことになります。
この数字が放射線被ばくによるものかどうかは議論が分かれるところで、福島県の県民健康管理調査検討委員会はこれを所謂「スクリーニング効果」によるものとして、放射線の影響であることを否定しています。
その推論に、勿論一理はあります。しかし本当のところ、「スクリーニング効果」がどのくらいなのかを示す、明確なデータはありません(それがあれば、子供の甲状腺がんの発生率に関する従来の通念が覆ることになります)。従って、スクリーニング効果が正しいものなのか、その存在それ自体が正しいとしても、それが100~300倍と言う全ての数字を説明できるものなのか、若しくは50倍までは説明できるけれど、後の50倍はやっぱり放射線被ばくの影響なのかは、いずれも「分からない」と言うことになります。
そして、もしたった今仮に、甲状腺がんを発症したお子さんが東電と国を相手取って賠償訴訟を起こした場合、「確定しているデータ」としては、「福島原発事故によって、甲状腺がんの発生率は100~300倍になったのであり、子供の甲状腺がんに対する低線量被曝の寄与危険度は99%以上である。」と言う数値だけが存在する以上、今までのアスベストや原爆症認定とのバランスからも、因果関係を認めざるを得ないのではないかと言う推論は、成立します。
もし県/国/東電がそれを否定する-「スクリーニング効果のせいである」と主張するなら、県/国/東電がそれを立証すべきですが、残念ながらそのような調査が行われているという話は現在までのところ私は聞いていません。
つまり国は、子供の甲状腺がんについて、科学的定量的データなしに、いわば「見込み」で長期の低線量被曝の影響を否定していると言えます。
一方で国は、累計2兆円にも達する巨費をつぎこんで、「年間追加被曝1mSv以下」への除染と言う大事業を展開しています。日本ではそもそも天然の放射線量が2mSv程度ですから、これは、「年間1mSv程度の低線量被曝は、健康に悪影響を及ぼす。」と言うことを、当然の前提としているものと思われます。しかし残念ながら、それを裏付ける科学的データはほぼありません。
つまり国は、科学的定量的データなしに、いわば「見込み」で長期の低線量被曝の健康に対する悪影響を肯定して「除染」という巨大公共事業を追行していると言えます。
この両者は、完全に矛盾します。そして伴に、科学的議論と情報開示が欠如しているという点で、共通しています。
私は、データがない以上、長期の低線量被曝による人体への影響は、現時点では否定も肯定もできないものと思います。しかし、実際に甲状腺がんとなって悩み苦しむ人がおり、2兆円もの巨費を投じて除染と言う名の巨大公共事業を行っているのですから、国は早急にそのデータを収集・解析・開示すべきものと思います。
調査は、決して難しいものではありません。福島県と同数の児童を、他県で調査すれば、それで十分ですし、それが困難でも、福島県の調査データにおいて、地域ごとの被曝線量と発生率を比較すれば、ある程度のことは分かります。
その結果、本当に影響がないとわかったら、甲状腺がんにかかったお子さんたちには、賠償とは無関係に適切な医療を提供するのを前提として1mSv以下への除染などと言う無意味な事業は、即刻止めるべきでしょう。
逆にもし低線量での被ばくでも、子供の甲状腺がんを増やすということがわかったら、その寄与度に応じた適切な補償を行うと同時に、科学的データに基づいた除染の基準をつくり、実現可能な事業を行うべきでしょう。
十分な科学的データの収集・解析・開示をする努力をせず、エモーショナルな議論でその場限りの対策を打ち出してきた国の姿勢が、福島の悲劇を増幅し、その収束を困難にしている現実を直視し、科学的データに基づいた議論で、実効性と統一性のある復興政策を実行することを望みます。
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