魚沼から豚生モツが消える日 ~自民党TPP交渉に思う~
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に「きっしー」さんからコメントをいただきました。コメントに対する返答が少々長くなりましたので、政治家としてよりも養豚家として稿を分けて述べさせていただきます。
「きっし―」さんの質問:
よくわからないので教えて下さい。
「特に生モツは新鮮なものをすぐに洗わなきゃいけないので」ならば、国産でしか商品にならないので、寧ろ高い値段でも生き残れるように思うのですが、だめなのですか?
日本人は特色を持った商品に対してはお金を出すと思うので、高級・独自路線の需要は残ると思うのですが、それだけで商売するのは甘いということでしょうか?
私の回答:
「きっし―」さん、コメントありがとうございます。
豚肉と豚モツの関係は、イカと塩辛の関係に似ています(そのものです-笑)。
塩辛は珍味で美味しいし、手をかけた分高く売れますが、しかしかといってそんなに大量に売れるというわけではありません。イカ漁師さんにとっては、基本的には卸売市場の「イカ一杯の値段」で何千杯とイカを売りさばいてそこで収入を上げてイカ船その他もろもろの経費を払い、塩辛用の内臓や、加工した塩辛の収入はプラスアルファって感じではないかと想像します(単なる想像です-実際は刺身や加工用のイカと、塩辛用のイカは違うのかもしれませんが、例示と言うことでお許しください)。
豚も基本的には、1月400~500頭を出荷して大量に食肉として売ったうえで、1月に100頭分くらいのモツを売ります。1頭の豚のうち肉として売るのは60㎏、モツとして売れるのは6㎏程で、値段は肉の最安値とほぼ同等です。従って売り上げとしては、モツは肉の1/40程度になります。
つまりモツは高付加価値製品ではあるけれど、基本的には(比較の上で)低付加価値製品である肉を大量に売って規模を維持してはじめて成り立つものであるわけです。
現在の日本の農業政策全般に言えることかと思いますが、マスコミ的には、少量高付加価値の珍しい産品を取り上げて「日本の農業はいける!大丈夫だ!」とはやしますが、実はそういった製品は、ロットが少なく「産業」「ビジネス」には非常になりづらいものです。
海外への輸出が良く取り上げられる苺についても、日本からシンガポールへの輸出量は年間10t、カルフォルニア1州からの1500t、韓国の900tと比較して話にもなっていません。「少量高額」農業は実は現在の日本だけで通用する「ガラパゴス農業」に過ぎない上に、担い手不足で今現在絶滅の危機に瀕しており、到底TPP下での競争を生き残ることができるモデルとは思えないわけです。
参照「博多の「あまおう」や栃木の「とちおとめ」では世界で勝負できない理由(http://bylines.
もし本気で「TPPと日本の農業の存続」を並立したいのなら、「あまおうに続け!」「日本の農業は大丈夫!」「農業の6次産業化!」的な甘っちょろい(恐縮ですが、現場のもとしてはそう見えます)幻想に依拠するのではなく、「1次産業として堂々と存続できる規模と効率性のある農場を運営するための法制度を整備し(その中には、現在の過度ともいえる品質・安全基準を海外並みにすることも当然含みます)、それを運営する能力のある農家に財政支援を集約し、農協をはじめとする農家支援組織には大胆な競争を持ち込むことが必要ですが、日本政府にそれに着手しようとする覚悟は見えません。
現在の「TPP+既存の体制を維持したままの『日本大丈夫』!的楽観論」に基づいた農業政策の行きつく先は、極めて高価な品種をほんの少量つくり、年に1度観賞用にそれを消費する「ガラパゴス的動物園(植物園)型農業」であろうと、私は思います。
TPPに参加するならするで、それがもたらすもの、それに対応するための策を的確に見据え、正直に説明し、覚悟をもって必要な対策を打つ政治を、政治を目指すものとしてではなく一農業経営者として、私は望みます。
詳しく解説していただきありがとうございました。
実情がよくわかりました。
マスコミではこういった「日本は高付加価値の商品で勝負すればよい」「やる気がある農家は残っていける」的な論調を見かけますが、そんなに単純な話でもなさそうですね。
この辺、あまりよくわからず、農家にばかり手厚い保護政策に疑問を感じている一般人も多いかと思います。
生産者でもあり、合理的な考えのできる米山さんのような方がもっと活躍し、情報を発信していってくれればと思います。
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