マレーシア航空機墜落の原因について、主にウクライナ側から矢継ぎ早に情報が出されています。それぞれの情報は説得力があり、まだ未確定な部分もあるとはいえ、「ロシアからの支援を受けた親露派の誤射による撃墜」でほぼ間違いないのでしょう。
言うまでもないことでしょうが、これは誰よりプーチン大統領にとって大打撃だと思われます。事故の一報を受けて会見する、普段はほとんど表情を変えないプーチン氏のゆがんだ顔が、何よりも雄弁にそれを物語っていました。
ウクライナ問題において、クリミア併合、親露派の支援と次々と強硬な手を打ったプーチン氏の戦略は、「EUとアメリカは対露制裁について一枚岩ではない」ことを見透かしてのものであり、もっと言えば「EUは本気で対ロ制裁を行わない」ことに依拠したものでした。
しかし、ロシアの関与でオランダをはじめとするEUの民間人が多数死亡したとなると、状況は一変します。EU各国は、感情的にも、国民世論的にも、対露制裁に踏み込まざるを得ません。
マレーシア航空機撃墜の数日前に発表されたアメリカの対露金融制裁以上の制裁が科せられ、かつ今度は欧米協調下で実効性をもった形で施行されることは、避けがたいものと思われます。
一方で、ロシア国民は、愛国的熱狂をもってプーチン氏の強硬路線を支持してきましたし、プーチン氏はこれを利用して権力を固めてきました。欧米の制裁を受けて強硬路線を取り下げることは、政治的自殺行為であり、もとより極めて権力志向の強いプーチン氏がこれを行うことはまずありえず、プーチン氏はほぼ間違いなく今までの強硬路線を継続するものと思われます。
そうであるならば今後のウクライナ情勢の行方はほぼ決まって、ウクライナは欧米の支援を受けて東部から親露派を排除し、親露派はロシアの支援を受けてロシア側で活動を継続し、両者が国境を挟んで対峙するとともに、EUとアメリカの対露制裁と、これに反発するロシア(及び中国その他の国の友好国)との我慢比べが続くということになるのでしょう。
その更に後の結果を予想することは困難ですが、しかし私は、非常に大きい確率で、欧米の対露制裁でロシア経済は失速し、ロシア国民が経済的窮乏に直面することになると思います。ロシアの経済は軍事力程には強くない上に、EU、アメリカからの金融に依存しており、制裁合戦による影響はほぼ間違いなくロシア側により大きな打撃を与えることになると思われるからです。
勿論この事件は、多くの要素、いくつかの偶然が重なって生じたもので、「愛国主義の結果」と断じることができるものではありません。しかし、結果としては、「クリミア半島の獲得」と言う愛国の夢に熱狂し、「愛国的指導者」を圧倒的に支持したロシア国民は、ほぼ確実に、今後相当な期間、相当程度の生活の困窮に苦しむことになるものと思われます。
国を愛すること、国を守ることは、勿論正しいことです。誰も文句はつけられません。しかしそれが、国際情勢の様々な要素や自国の実力に目を向けない盲目的愛国となり、そこから盲目的愛国を理由とした権力が生まれ、盲目的愛国を根拠とした政治がなされる時、国家はむしろ衰退し、国民は自らが愛したはずの国家に苦しめられることになります。
私たち日本人は、目の前で起こった「プーチンの誤算」、そしてこれから起こるであろう「ロシアの悲惨」を、他山の石とすべきものと思います。
Cf. この記事のFBへの投稿に対して、「日本がロシアを他山の石とするような事態は起こらない。」とのご指摘をいただきました。もちろん日本を取り巻く状況と、ロシアを取り巻く状況は全く異なります。
しかし、安倍首相は、「地球儀外交」と銘打って、累積する財政赤字をよそに、外遊のたびに効果のほどはよくわからない対外支援を気前よく打ち出しています。また、集団的安全保障それ自体には私は賛成ですが、建前はともかく本音としては、安倍首相は非常に広範囲な活動への参加を希求している様に見え、本当それを実行すれば、それだけで防衛費も必要な人員も増大するものと思われます。それらの経済的、人的負担増は、資金不足と人手不足に苦しむ日本経済にとって、大きな負担となる可能性があります。極めて残念なことですが、日本の国力は10年20年前と比べて大きく低下していることを複数の客観的データから認めざるを得ないのですが、安倍政権は、それらに目もくれず、若しくはそれらは短期に修正できるという「大国の夢」を見て、身の丈に合わない防衛・外国戦略にまい進しているように私には見えます。その姿は、資源高による一時的な経済の回復によってソビエト時代の大国に戻れると夢想して、少なくとも経済力には見合わない膨張外交を志向するプーチン政権と、どこか重なります。
私たちは、他国を他山の石として、盲目的愛国にとらわれることなく、有限な日本の国力を冷静に見つめ、それを国内の諸問題の解決と、防衛・外交への対処にどのように振り向けるのが最も効果的なのか、常に自問自答すべきだと思います。
そうですかね。プーチンはあの感じからすると早くEUと手打ちをしたいから、まだ天然ガスを値上げすることなく売り続けているのでしょう?
アメリカも共和党からああだこうだとつっこまれているのでオバマ大統領は仕方なく動いているようにしか思えません。
プーチンも領土的野望というよりは、現在は勝手に独立宣言して暴走を始めた連中に困惑しているように思えます。クリミアのときはそれに悪乗りした感がありますけど、今は違うでしょう。
ロシア国民に「勝手に独立派」を応援すると、ロシアが経済的に不利になると「制裁」によらないでなく分からせる方が効果的でしょう。
今の時代、制裁しても裏切る国がありますしね。
名無しさん、コメントありがとうございます。
未来のことは分かりませんから、勿論推測ではあります。ただ、私は、見誤ってはいけない点が二つあると私は思っています。
一つは、西欧の人々の「人道」への思い入れです。勿論西欧にも偽善は多々あり、西欧が正義だなどと言うつもりは毛頭ありません。しかしそれでも、彼らが非常に強く、「人道」守ろうという理念を持っていることは、事実でしょう。ロシアが明白に人道に反する行為をしたという証拠が出たとき、「制裁を裏切る」などと言う選択肢は、上記のとおり国内世論的にも感情的にも、EUの国々はまず取れないし取らないと私はほぼ確信しています。
もう一つ、こちらは不確かなのですが、ロシアにおける「愛国主義の束縛」の強さです。ソビエト政権崩壊後の混乱に飽き飽きしたロシア人は、極めて強く愛国を求めているように見えますし、プーチン氏こそは、そのロシア人の愛国主義を、煽動してきた張本人であるように見えます。プーチン氏は、EUとの協調による経済的利益と利権の大きさに気が付かないほどに聡明でないとはとても思えませんが、しかし彼自身が権力を手放すリスクを冒してまで国全体の利益を考えて行動する程に高潔な人物であるようにも、とても見えません。人の国のことではありますが、「プーチンの権力欲」と「ロシア人の愛国」によって、両者ががんじがらめのまま突き進む可能性は決して低くないものと思います。
さて、上記のロシアの現状は、何処か日本の現状と、重なりませんか?
正直に、ロシアのやり方と首相が進めていることはイメージとしてかぶりました。
でも、国連のヘイトスピーチに関する決議には違和感を感じます。。日本に向けてだけ?知らないだけなのでしょうか?各国に向けても発信されてるの?
しょーもない書き込みに返信いただきありがとうございます。
欧米の「人道」にはかなり胡散臭いものを以前から感じております。イスラエルのガザ侵攻などみると、異教徒=人道の対象外に見えて仕方ありません。19世紀までの植民地主義が根底に残っているような・・・あくまでも聖書基準にしか過ぎないと思いません?
多神教的なあちらにはあちらの論理があるんだから、とりあえず話を聞こうというスタンスは弱い印象です。
ロシアは、基本ジャイアンなのかなと思いますよ。周辺諸国を「のび太のくせに」とやっているような印象ですが、少なくとも中国よりは大国としての自覚、大人の自覚、経済の重要性をわかっているような気がします。
横暴な行動は、他国の生の情報を一般人がみるチャンスがほとんどないのでしょうね。国民性が大きいとは思いますが、先に情報統制を(完全ではないにせよ)止めたロシアが大人な理由はここかなという気がします。
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