これも言うまでもないことでしょうが、安倍内閣は、成長戦略第3の矢として、「女性の力の活用」を大々的に打ち出しています。

 勿論私も「女性の力を活用する仕組みを作らなければならない。」ことそれ自体には、賛成です(反対の理由があろうはずもありません)。しかし、批判は承知のうえで、私は総理に、はっきりと申し上げたいとおもいます。「おそらくそれは、成長にはつながりません。」と。

 政策の評価基準には、「効率」「公平」「公正」の三つがあるとはよく言われます。「効率」は、「最大多数の最大幸福」的観点であり、ある結果を得るために最も効果的な政策を希求するものです。「公平」は、要は平等を志向するもので、どのような政策であれそれは、「公平」に適用され、機会か結果かはともかく、多くの人に平等に効果をもたらすべきであるとするものです。「公正」は、正義に属するもので、例え多くの人にとって「効率的」で「公平」な政策であっても、ごく少数の人に対して、著しく正義に反するとか、極めて不当な結果を招くものであってはならないとするものです。
 政策は勿論上記の「効率」「公平」「公正」の三つ全ての要素を満たすことが一番良いのですが、世の中に完全と言うものはありません。政策ごとに、ある要素は100%でなくても良しとしなければなりません。逆に言うなら政策ごとに、「効率」「公平」「公正」のどれを最も重視するのかと言う優先順位が必要であるということになります。

 政策としての「成長戦略」において、この3要素のうちなにが最も重視されるべきかと考えた場合、それが「効率」であることに、さしたる異論はないように思えます。そもそも「成長」は、個人であれ組織であれ、極めて大変なことであり、出来るだけ効果の上がるところで、出来るだけ効率的に行わなければ、目に見える結果にはつながらないからです。
 この「効率性」の観点から「労働政策」における「成長戦略」のターゲットを考えると、当然それは日本の労働市場の「ボリュームゾーン」であるということになります。そして日本の労働市場の「ボリュームゾーン」は、現実として、20台~40台の「成人男子」、なかんずく、私をはじめとする「中年のおじさん達」なのですから、成長戦略も、本当に効果を上げたいのなら、「中年のおじさん達」をターゲットにすべきだということになると、私は思います。

 これも非常によく言われることですが、日本の労働分野の大問題は、「ホワイトカラーの労働生産性の低さ」にあります。私自身もとてもほめられたものではありませんが、IT技術もマーケティングもデザインも知らず、理解せず、学ぼうともしない方々が組織の指導的立場に立ち、部下たちに頓珍漢な命令を出して右往左往させておきながら、結局のところ滅私奉公の長時間労働で全てを埋め合わさせている現場に直面する事は多々あります。本気で日本を成長させたいのなら、会社のガバナンスの適正化、労働慣行・労働市場の適正化、教育の在り方、最終的には働き方に対する社会の考え方も変更して、「働くおじさん達」に「給与に見合った働きをしてもらう」仕組みを作ることこそが、最も効果的なのではないでしょうか。
 もちろん上記の政策はどれも大変で、効果を生じるまで時間がかかるものですが、そもそも「成長」と言うのは時間がかかる大変なものです。男性管理職を女性管理職にすげかえただけで成長できるならだれも苦労しませんし、それこそ問題は、それまでの女性管理職の登用不足にではなく、男性管理職の非効率にこそあったのだということになります。

 もちろん一方で日本の労働の現場で女性が根強い差別、不平等に直面していることは間違いなく、この点の是正が必要なのは当然なのですが、それは基本的には「公平」もしくは「公正」の問題です。今まで男性管理職と同等の能力があるのに不当な取り扱いを受けていた女性の方が、その能力にふさわしい立場と処遇を受けるべきなのは当然ですし、そうなったらその恩恵を受けた本人にとってはハッピーなことでしょうが、組織全体で見たときそれは、今まで有能な男性管理職が占めていたポストを、同程度に有能な女性が占めるだけのことで、何ほどの成長要因になるわけでもありません。「公平」「公正」と言うのは、「不公平」「不公正」を改めれば良いので比較的短期間に、かつ基本的には正しいことなので誰からもさしたる反対なく達成できるものなのですが、かといって特段アウトプットを増やすものではないのです。

 結局安倍内閣が「女性の活用」を成長戦略の柱としているは、本来時間も労力もかかり、それゆえに「効率性」を最大限重視して定められるべき政策を、無理やり短期間で実現可能であることにするために、短期間で実現でき、しかも多くの人が反対しづらい、「公平・公正」の実現のための政策と意図的に、もしくは政策的無知に基づいて混同しているからだと、私は思います。

 繰り返しですが、「成長」には、時間も労力もかかります。「成長」するためには、最も多数を占める、最も問題のあるところに切り込んで、本質的な解決を行わなければなりません。そして今の日本で率直に言ってそれは、私を筆頭とする、「威張っているわりに、時代遅れで、給料に見合った働きをしないおじさん達」です。しかし自己弁護を含めて言いますが、おじさん達も本当は、「時代に即応した、価値ある仕事をして、皆から尊敬されたい」んです。それをできないはもちろん自分の能力不足もあるのですが、同時に、変化を嫌う企業風土、チャレンジが評価されない社会、適切な技術と知識を身に着けられない教育も、大きく影響しているように思います。

 日本の成長のために、女性の力を生かすべきなのはもちろんですが、現時点で日本の産業を支えている主力である、「疲れたおじさん達(笑)」およびその若き予備軍が、生き生きとその実力を発揮してこそ、効率的な日本の成長が可能となります。
 政治は、おじさん達が実力を発揮するのを阻む幾多の障害に大胆に切り込む「効率」的な政策にこそ、是非注力して頂きたいと思います。その政策が「公平・公正」である限り、それはそのまま、女性にも適用され、女性の力も発揮できることになるのですから


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コメント

能力を加味した結果女性が3割(違っていたらすいません)を占めた(越えた)
というこであれば特に異論はないのですが、
最初から女性を3割と決めてやるということは、
その女性達以上に能力がある男性が、3割という制限のために除外される可能性があるという事だと認識します。
それは政策としてはいかがな物かと思います。
当然男と女で向き不向きもあるわけで、お互いの長所を活かすような採用の仕方というのならそれはそれでまた納得できる部分もあるんですが。


  • Posted by とおりすがり(元)
  • at 2014/07/22 13:28:59

それではどのように「おじさん達」を活用する戦略を提言されますか?

  • Posted by わかもの
  • at 2014/07/25 23:15:32

「日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体」という本を思い出しました。

日本の女性の社会進出が諸外国と比べて低いとありますが、原因は日本の女性の甘えじゃないかと思いますね。
私の母親は昭和50年代に操業して0から従業員10人を雇う社長を2年前までやってましたし、よく「女であることを言い訳にする女が多すぎる」と言ってました。ちなみに父親の会社は経営不振により、母親の会社に救済され完全子会社になりました(笑

女性の社会参加の問題は社会制度の問題ではなく、教育なんでしょうね。ってことは、今から初めて小学生が40代になる30年ぐらいはかかるかも。

  • Posted by 名無し
  • at 2014/07/27 08:32:46

>それではどのように「おじさん達」を活用する戦略を提言されますか?

そんな漠然とした質問されて答えられる人は少ないでしょう。
そもそも私の書き込みの趣旨理解してますか?

  • Posted by とおりすがり
  • at 2014/07/27 22:13:00

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