ニュースの感想
自民党が「クローズアップ現代」のNHKと「報道ステーション」のテレビ朝日を党本部に呼んで聴取を行ったのち、更にBPO(放送倫理・番組向上機構)に該当報道について審査するよう申し立てることを検討していることが、物議を醸しています。
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私はこれに明確に反対であり、自民党はBPOに申し立てをすべきでないと思います。理由は3つあります。
まずもって、BPOの過去の決定例を見てもらえるとわかりますが
(http://www.bpo.
「それならNHKもテレビ朝日も、普通に受けて立てばいいじゃないか。」と思われるかもしれませんが、ことはそう簡単ではありません。まずもって、通常の人からの申し立てなら「問題なし」とされる事例が、「自民党総裁 安倍晋三」からの申し立てでは「問題あり」とされてしまうかもしれないからです。人が人を裁くというのは極めて難しいことで、どうしても事案自体の当否ではなく、「言っている人の肩書や立場」とか、「周囲の状況」とかに引きずられます。人が人を裁く場である裁判ではそれを避けるために憲法で三権分立がさだめられ、裁判官の身分はほぼ絶対的に保障されていますが、BPOは単なる自主規制機関にすぎず、評議委員もまあちょっとした「学識経験者」にすぎません。今後の仕事のことを考えて、今までの決定とは異なる決定を下す可能性は実は極めて高いものですし、上述した通り、自民党自体それを狙っているからこそ、秘書ではなく、「自民党総裁 安倍晋三」の名前で申し立てを行おうとしているのではないかと考える余地は非常にあります。
また仮にBPOが極めて独立性が高く、名もない秘書からの申し立てでも「自民党総裁 安倍晋三」からの申し立てでも同じように取り扱う素晴らしい機関だとしても、このような申し立てをされれば、当然やられた方は非常に面倒ですし、最終的に「問題なし」とされるとしても、その間世間から「申し立てられるからにはおかしいに違いない。」という疑いをかけられます。「真っ当な報道をしていれば、何もプレッシャーを感じる必要はないし、単に受けて立てばいいのだから問題ない。」と主張する意見も散見されますが、それは率直に言って空理空論です。裁判の世界ではこういった裁判の中身ではなく、裁判を起こすこと自体によって相手にプレッシャーをかけることを目的とする訴訟をSLAP訴訟と言って避けるべきものとされていますが、この申し立ても、自民党がマスコミにプレッシャーをかけること自体を目的とした「SLAP申し立て」であるように、私には見えますし、仮にそういう明示的な意図はないにしても、実質上「SLAP効果」によってマスコミが委縮する作用があるなら、そこは抑えるのが与党としてあるべき姿だと思います。
そして最後に、そういった色々な反対を押しのけ、首尾よく?自民党のごり押しが通って、今までなら「問題なし」だった本件が「問題あり」となったら、それこそそれは、放送法に定める公正中立の概念に反するもので、自由主義社会の日本において許されるべきでないことでしょう。
以上要するに、
(1)そもそも過去の決定例を見る限りこれは「問題ない」事例であり、秘書にでも申し立てさせればそれはすぐに確認できるはずです。(2)①にもかかわらずわざわざ「自民党総裁 安倍晋三」名で申し立てることを検討しているのは、自民党の看板、総理総裁の看板を利用しようとしていると思われても仕方なく、政権与党としてやるべきことではありません。②また、そのような意図がないとしても、やられた側は迷惑だしかつ委縮効果も大きいのだから、言論の自由を尊重すべき政権与党の立場として、やはりやるべきではありません。(3)それでも権力を笠にごり押しして過去の決定例に反して「問題あり」とするなら、本当に放送法に反するもので、自民党こそが、言論の自由を侵害していると考えざるを得なくなってしまいます。
という3つ(細かくは4つ)の理由により、私は自民党が本件をBPOに申立てることに強く反対します。自民党の再考と、良識ある判断を求めます。
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