ニュースの感想

 先日民主党をはじめとする野党4党が提出した後期高齢者医療制度廃止法案が参議院で可決されました。又これに先立って、厚生省が「後期高齢者医療制度の導入によって、7割の加入者の保険料が減少した」との実態調査を発表しました。私は野党にも、そして私が属する政府与党にも、そして厚生労働同省にも、「いい加減にまっとうな議論をしましょう!」と、声を大にして訴えたいと思います。

 野党の提出した後期高齢者医療制度の廃止法案は、単に「廃止して元に戻しましょう」というシンプルなものですから理解は容易です。しかし、「それでは老人医療費の増大にどう対処するのですか?」問われた時の反論が、「75歳以上で線引きするのは差別的だからともかく止めて元に戻すんだ!」に終始しているのには、正直げんなりしてしまいます。後期高齢者医療制度を廃止すれば、制度は「老人保険制度」に戻ります。これは70歳以上の方の医療費の自己負担率を1割とする(70歳未満は3割)制度ですから、野党の論理をそのまま適用するなら、「70歳以上を差別する制度」に他なりません。75歳での線引きがいけないのに70歳なら良い理由は、正直理解不能ですし、「70歳以上は負担が軽減されるから良いんだ」という理屈なら、「それでは(3割負担の)70歳未満の人が、差別されていることになりませんか?」という反論をしたくなります。
 現在70歳以上の高齢者の1人あたりの年間医療費はおよそ80万円、合計で11.5兆円です。これを国民1人あたりが、年間およそ9万円の負担をすることで支えています(勤労者1人あたりが、月々1万円程度払っていることになります)。このままの制度なら、2025年には(あと17年ですが、其れはすぐにやってきます)これが合計37兆円となり、1人あたりの負担額は30万円にもなります。これは70歳未満の勤労者の1人あたりで、毎月4万円を老人医療費を支払うことを意味します(1世帯あたり8~12万円になります)。「お年寄りがかわいそうだ」「お年寄りを助けるんだ」というのは簡単ですが、本当にそれだけの負担が出来るのか、負担をした上で若年層の教育や医療に十分なお金をかけられるのか、今私たちは真剣に考えなければなりません。そういった議論を一切避けている野党の皆さんには、「このままではお年寄りもかわいそうかもしれませんが、若年の勤労者もかわいそうなことになります。いい加減まっとうな議論をして、両者のバランスをどうとるか、現実的な妥協案を考えましょうよ」と呼びかけたいと思います。

 一方で政府与党は、現在後期高齢者医療制度への国民の不満を和らげる為に、いくつもの負担の軽減措置を打ち出しています。それ自体は低所得者への配慮と言うことで良いことなのだと思うのですが、その財源350億円についてはまだ議論が為されていません。正直「負担緩和の大バーゲン」状態で、「負担能力のある高齢者の方々には応分の負担をお願いすることで継続可能な制度を作る」という当初の目的はどこかに起き去られている感を否定できません。「低所得者への配慮」は必要ですが、「配慮」によって免除された部分は、必ず誰かがかぶらなければなりません。それが若年者になるのか、高所得の高齢者になるのか、それとも道路等々の他の科目の予算になるのか、もしくは医療の受診制限になるのか、その議論を責任ある与党として避けてはならないと、私は思います。私は与党の一員として、「どのような制度を作り、誰がどのコストをどう負担したら、若年者もお年寄りも、納得できる医療制度を作れるのか、人気取りに走らず、まっとうに議論しましょう」と訴えたいと思います。

 そしてその議論の事務方を担う厚生省の方々には、「正確な議論を行う為に、きちんと情報を開示して、科学的な論理に基づいた議論を行いましょう」と求めたいと思います。前述した厚生労働省の実態調査は、報道から見る限りあまりにもモデル設定が恣意的で、正直、「非科学的推定」のそしりを免れません。そして驚くべき事に、この「実態調査」の元データは、現時点で一般には公表されていません。「7割の人の保険料が下がった」との発表が為されていながら、一般国民はその検算さえろくに出来ないのです。これでは、「最初に結論ありきの統計で国民をミスリードしようとしている」と疑われても仕方がないと言えます。

 現在の日本の医療制度は、抜本的改革が避けられない状況に来ています。そしてその改革においては、何らかの形で国民に新たな負担を受け入れてもらうことが不可避でしょう。そうであれば、議論をリードする立場にある与党、野党、厚生省は今までの自らの立場にとらわれることなく、科学的な情報に基づいた、論理的な分かりやすい議論で、将来の選択肢を国民に提示する義務があります。国会は間もなく閉会しますが、将来の医療制度についての議論が深まっていくことを、心より期待します。


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