ニュースの感想

亡国のバズーカ ~円安期待の恐怖~

  • 米山 隆一
  • at 2014/11/10 09:08:38

  黒田総裁が追加緩和を発表して以来,株価は急激に上昇しましたが、同時に円は7年ぶりに114円を付け、世界で円独歩安の様相を呈しています。

 この「円安」なかんずく、今後も一層の円安が続くだろうという「円安期待」の影響を、軽視すべきでないと、私は思います。

 「期待(予想)」が経済に与える得今日は、甚大なものがあります。そもそもアベノミクスの「デフレを脱却すれば-インフレになれば好景気になる」は、この「期待」に大きく依拠した理屈です。
 デフレが継続する状況が「期待」される場合、物の価値は、日々安くなります。今日よりも明日、明日よりも明後日のほうが安ければ、人は今物を買わず、できるだけ消費を控えるようになります。一方でインフレが継続することが予想されるなら、物は今日よりも明日、明日よりも明後日高くなるわけですから、人はなるべく早く物を買おうとして消費が高まり、景気が拡大するだろう、これがアベノミクスの根本的な考え方です。

 この理屈は、おかしなところもありますが、とはいえ一部正しいところもあるからこそ、アベノミクスは実行されています。しかしその同じ理屈が、「円安期待」にも当てはまることが、意図してかせずしてか、なぜか日銀からも政府からも、完全に無視されているように見えます。

 FRBが量的緩和の終了を明言し、日米の金利差が開き、日本の景気が躓き、アメリカの景気が比較的堅調な中で、黒田バズーカ砲によって、「未曽有の量的緩和の継続」を宣言したのですから、円は今後とも下落し続けると考えるのは、むしろ普通で、だからこそ冒頭で指摘した通り円は114円をつけ、市場には先安観-「円安期待」が漂っています。
 この「継続的円安期待」がある場合、日本に対する投資はどうなるでしょうか?円建ての資産のドル換算後の価格は、今が一番高く、今日よりは明日、明日よりは明後日が安いということになります。つまり、今もし円をもっているなら、その円を日本に投資するのではなく、ドルに換え、海外で投資して、円安が進んでから日本で投資した方が得だから、日本国内への投資はなるべく控えようということになります。
 さらに円を持っていなくても、この際日本で円を借りて、海外で運用して、円安が進んでから返す「円キャリートレード」を行えば、濡れ手に粟で巨利を得ることができるという計算さえ成立します(黒田総裁の発表後世界の株式市場で株高となっており、一部では実際にこの様な取引も行われているものと思われます。)。
 要するに、「インフレ期待」→「消費拡大」という理屈は、グローバル化が進んだ現在の経済状況下においては、「円安期待」→「国内投資低迷」という同じ理屈によって、完全にキャンセルアウトされかねないのです(逆に言うと、今まで曲がりなりにもアベノミクスがうまく行っていたのは、大規模な金融緩和にもかかわらず円相場が危うい均衡を保ってそれなりの水準を保っていたらからで、それを自らぶち壊す黒田バズーカ砲は、狂気の沙汰といえなくもありません。)。
 また、上記の「円キャリートレードは」、極論すると、「日本のお金を貸して海外のライバル発展させ、しかも返済時には貸した時よりも少ししか返ってこない上、貸し倒れのリスクは日銀が負っている」ということで、日銀のリスクとお墨付きで世界中のライバルに、未曽有の規模で塩を送りまくっているということになります。

 つまり黒田バズーカ砲による「円安期待」は、インフレ期待による消費拡大をキャンセルアウトするだけにとどまらず、日本への投資を海外に流出させ、「円キャリートレード」で世界の金融資本に「日銀のリスク」で巨利を与え、「インフレが高まり、円安が進行しているにもかかわらず、何ら景気は向上しない。」という恐怖のシナリオを呼び起こし、そして最終的には、これ以上ないというところまで円安が進んだ時点で、日本の資産が買いたたかれる可能性を惹起するものだといえます(大ざっぱに言うと、これがスペインやギリシャをはじめ多くの国で起こった「通貨危機」というものです。)。
 これを亡国の政策といわなくてなんでしょうか?

 黒田バズーカ砲は、「2%のインフレ率の達成」「アベノミクスの成功」という空虚なスローガンの達成のために、世界市場における日本という国家への期待値(円の価値への期待値は、つまりは日本の価値への期待値です。)を自らかなぐり捨て、日本の将来を多大なリスクにさらす極めて危険な賭けであり、早期の撤退が強く望まれることを、私の立場から強く申し上げたいと思います。


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